ジャーナル


日本における社内ベンチャー成功の秘訣
はじめに

社内ベンチャーによる
新規事業開始の段階における諸問題

金井 高志(フランテック法律事務所 弁護士)

一 はじめに

 ベンチャー企業という場合、新規に会社を設立して事業を起こす場合が典型的な場合であるといえますが、企業のある事業部門や人材を基礎にして新たな事業を起こすこともあります。社内の経営資源を利用して効率的に事業を起こすという方法は、新たにゼロからベンチャー企業を設立する方法よりリスクが少ないと考えられます。ただ、このような社内ベンチャーの場合にも事前に検討しておくべき問題があります。本稿では、このようないわゆる社内ベンチャーを通じて事業を開始するための(社内ベンチャーの企業化のための)手法を法的に検討し、これに伴う諸問題を検討してみたいと思います。


二 社内ベンチャーの意義と法的手段

1 社内ベンチャーとは

 社内ベンチャーとは、企業組織の活性化を促進する目的などで、社内の人材が主体となって、本業以外の事業分野へ新規に進出したり、新製品の開発を行ったりする事業企画のために、企業内部に独立した事業組織を設立したり、企業の子会社を設立してそこで新規事業を開始させる制度のことです。社内ベンチャーの場合、いわゆる事業部制とは異なり、企業の中核を構成する事業以外の分野において新しい事業が開始されるのが特徴です。

2 法的手段

(1)従来の社内ベンチャーの企業化の法的手段
 社内ベンチャーをいわゆるベンチャー企業として独立させるには、社内に事業部を創設し新規事業を開始している場合と新規事業の開始時点から子会社等を設立して新規事業を開始している場合で異なる手段がとられます。
 ここでは一般に、MBO (Management Buy Out) と呼ばれる手法が利用されています。MBOとは、既に企業内において事業経営に携わっている者が、自らの事業経営の目的で、新会社を設立して既存の事業部門の営業譲渡を受けたり、事業の営業を行っている既存の子会社等の株式の取得という法的手段により、企業を買収することです。簡単に言えば、ある企業の役員などの経営陣がその勤務する企業の事業部門や子会社等を買収することで、社内ベンチャーをベンチャー企業とするわけです。

[1] 営業譲渡に基づく社内ベンチャーの企業化
 営業譲渡は、譲渡会社と譲受会社(新会社)との間の営業譲渡契約によってなされます。つまり、本体の会社と新会社との間で事業部門が売買されるという契約により行われます。実際には、営業譲渡の対象となるのは個々の財産であり、営業譲渡契約においては、個々の財産が売買の目的物として個別に譲渡されることになります。
 その上、商法の要件を満たして初めてこの営業譲渡契約の効力が生じます。具体的には、譲渡会社の株主総会の決議や新会社の営業の譲受について裁判所の選任した検査役の手続などです。

[2] 子会社等の株式の取得による事業の承継
 この場合、子会社等の事業を継続し承継しようとする者は、その子会社等の経営権取得のために、その子会社等の株主との間で株式を買い取るという株式売買契約を締結します。この場合、株式譲渡に関する一定の手続が必要になりますが、特別に厳格な法律上の規制があるというわけではありません。

(2)社内ベンチャーの企業化における会社分割制度の活用
 平成12年商法改正により、新たに会社分割という制度が新設されました。会社分割制度とは、会社の営業の全部または一部に係わる権利義務関係を包括的に承継させる制度です。
 従来の営業譲渡(会社を新設するために、既存の会社の営業を新会社に現物出資する場合を含む)を行おうとする場合、契約内容が複雑になったり、手続が煩雑になったりといった事情があり、会社組織の再編にとって不都合な点があることが指摘されていました。また、会社を予め新設しておいてこの新会社が営業譲渡を受ける場合にも、「事後設立」(商法第 246条1項)に当たることが多く、この場合には一定の手続が必要となることから(商法第246条2項、3項参照)、この手続に半年近くも時間がかかってしまうというのが実状でした。
 このような事情を踏まえた今回の商法改正で新設された会社分割の制度により、企業再編のための手続は大幅に整備されることになりました。
 平成12年改正商法の施行後は、社内ベンチャーの企業化との関係で、このような会社分割が多いに活用されることになると思われます。例えば、A会社がある事業部門をB会社として分離し、B会社の経営に携わろうとする者が、B会社の株式を取得するというかたち(A会社が取得したB会社の株式を取得する場合とA会社の株主が取得したB会社の株式を取得する場合がありえます)で、企業分割の制度を社内ベンチャーの企業化に利用することが考えられます。
 このように社内ベンチャーの企業化における会社分割という方法は、従前の社内ベンチャーの企業化の方法として先に触れた方法との関係では、営業財産を移転したのと同様の効果を、株式取得という比較的簡便な手続により得られるという点にメリットがあるといえます。


三 社内ベンチャーの企業化におけるその他の問題

 社内ベンチャーの企業化は、通常のベンチャー企業が最初から事業を起こすという場合に比べ、本体企業からヒト・モノ・カネのいずれの面でも経営資源を本体企業から譲り受けることができ、有効な手段であるということができると思います。また、平成12年商法改正に基づく会社分割という制度を利用することにより、企業の再編成の一環として、新規事業部として行ってきていた社内ベンチャーの事業を別会社として企業化する機会が拡大するものと考えられます。
 もっとも、社内ベンチャーの企業化のためには、先にあげた法律上の問題を論じる以前の根本的な問題として、初期段階において新規事業の事業計画(ビジネスプラン)を綿密な検討を重ねた上で作成しておくことが必要であることはいうまでもありません。
 また、営業譲渡や会社分割などでは、資産評価に関する会計上の問題(いわゆるデユーデリジェンスに関する問題)、財産の移転に伴う税務上の問題も検討しておく必要があります。また、MBOにより経営に携わろうと考えている者が経営権を取得しうるだけの株式を取得する場合には、一般に、多額の資金が必要になりますので、この資金の調達の問題や、株式の譲渡に伴い課税関係が生じることも考えられます。さらに、将来的に株式公開を目指すのであれば、誰が、どういう割合で株式を買い取り保有することが資本政策上適切であるかといったことまで視野に入れておく必要があります。
 このように、社内ベンチャーを企業化する場合には、法律・会計・税務等の面で様々な問題があるのです。
金井 高志(フランテック法律事務所 弁護士)
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編集部参考資料
 
参照条文
同法245条1項
会社ガ左ノ行為ヲ為スニハ第三百四十三条ニ定ムル決議ニ依ルコトヲ要ス
 一 営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡
 二 営業全部ノ賃貸、其ノ経営ノ委任、他人ト営業上ノ損益全部ヲ共通ニスル契約其ノ他之ニ準ズル契約ノ締結、変更又ハ解約
 三 他ノ会社ノ営業全部ノ譲受

商法246条
第二百四十五条第一項ノ規定ハ会社ガ其ノ成立後二年内ニ其ノ成立前ヨリ存在スル財産ニシテ営業ノ為ニ継続シテ使用スベキモノヲ資本ノ二十分ノ一以上ニ当ル対価ヲ以テ取得スル契約ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
(2)取締役ハ前項ノ契約ニ関スル調査ヲ為サシムル為検査役ノ選任ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス
(3)第百七十三条第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ、第百八十一条第三項及第百八十四条第二項ノ規定ハ前項ノ検査役ノ報告書及本項ニ於テ準用スル第百七十三条第三項前段ノ弁護士ノ証明書ニ之ヲ準用ス

同法343条
前条第一項ノ決議ハ発行済株式ノ総数ノ過半数ニ当ル株式ヲ有スル株主出席シ其ノ議決権ノ三分ノ二以上ニ当ル多数ヲ以テ之ヲ為ス

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