ジャーナル


日本における社内ベンチャー成功の秘訣
はじめに

社内ベンチャーが成功する条件
高木文堂(高木ぶんどう外国法事務弁護士事務所 ニューヨーク州弁護士)

 NTTドコモのiモードやソニーコンピュータのプレイステーションのような例外はあるが、一般的に言って、社内ベンチャーが成功するのは難しい。会社設立やM&Aなどの業務に法務の観点から携わっていると、書類を整えるだけでビジネスが成立するような錯覚に陥りがちだが、ビジネスを成功させるためには、きちんとしたビジネスモデルが必要である。

 では、ビジネスモデルがあれば、ビジネスが成功するかというと、そうは問屋が卸さない。ビジネスは生身の人間が動かす有機体であるから、その有機体に適した生息環境が何よりも必要である。社内ベンチャーがなかなか成功しないのは、従来型企業の生息環境の中でベンチャービジネスがすくすく成長する生息環境を確保するのが困難なためである。

 では、ベンチャービジネスに適した生息環境とはどのようなものであろうか。米系コンサルティング会社のオービス・アソシエイツは従来型の企業(ドット・コープ企業)とネットベンチャー企業(ドット・コム企業)の持つ特徴を次のように対比している。

ドット・コープ企業 ドット・コム企業
管理的(Managerial) 起業家的(Entrepreneurial)
遅い(Slow) 迅速(Nimble)
官僚的(Bureaucratic) 柔軟(Flexible)
顧客主導型(Customer-driven) 顧客主導型(Customer-driven)
分析的(Analytic) 学習志向的(Learning-Oriented)
過去のしがらみに縛られる
(Bound by Past Resource & Commitment)
過去のしがらみに縛られない
(Free of Legacy, Cultures, Resource, Commitment)
オーナーシップ志向
(Ownership-Oriented)
バーチャル志向
(Dynamically Virtual)

 日本の大企業のほとんどがドット・コープ企業であるのは一目瞭然である。社内ベンチャーを成功させるためには、従来型企業の生息環境の中でドット・コム企業の生息環境を創り上げなければならない。この中で、社内ベンチャーにとって特に難しいのは、過去のしがらみに縛られないということだろう。

 例えば、全国に広範な代理店網を持つメーカーがインターネットによる直販事業に乗り出すのは極めて難しい。既存の代理店との関係にひびが入ることを恐れるからである。現に、ソニーを除いたほとんどの家電メーカー、また、すべての自動車メーカーがインターネットによる直販事業に乗り出していない。

 これはネット通販に限らず、社内ベンチャーには本業のビジネスモデルを阻害するようなビジネスモデルを実践できないという制度的制約がある。ベンチャービジネスは既存のビジネスモデルを破壊するような画期的なビジネスモデルを考え出すからこそベンチャーなのに、これが許されない社内ベンチャーは大きなハンディを背負っていることになる。

 NTTドコモのiモードが成功したのも、iモード事業がNTTドコモのビジネスモデルそのものを破壊するものでなく、それまでのサービス内容を拡充するものであったためであろう。

 また、ソニーコンピュータのプレイステーションが成功したのも、これまでのソニーの事業ドメインとあまり抵触することなく、先行プレーヤーの任天堂のビジネスモデルを破壊するようなビジネスモデルを提示することができたからである。

 すると、本業のビジネスドメインの中での事業革新を期待されている社内ベンチャーはどうすれば良いだろうか。この点については、GEのジャック・ウェルチの取った方法が参考になる。ウェルチは、インターネットを使ったドット・コム企業を迎え撃つために、すべてのSBUに対して、「インターネットを使って、これまでのビジネスを破壊せよ」との指令を出し、GEのネット・ビジネスを立ち上げることに成功した。

 しかし、GEの場合は、GEがすでに先に挙げたドット・コム企業の性格を全て持つ企業であったということが大きい。従来型企業の中で社内ベンチャー部門だけ、ドッコ・コム企業の企業風土を維持するのは極めて難しい。では、どうすれば良いかというと、最も手っ取り早い方法は、ドット・コム企業を子会社として立ち上げ、社内ベンチャーを社外ベンチャーとすることだろう。

 例えば、オーストラリアのある銀行はE-business戦略をたてるために、40部門の1つ1つに独立した資金と役員を持つ子会社を作り、本社の40部門のトップに、“インターネットによるビジネス上の悪夢は何か?”と問いかけた。トップの半分は何も恐れていなかったが、残りの半分はそれぞれが思いつく悪夢を語った。20にリストダウンされたその悪夢は、現在、それぞれの子会社によって実行されている。

 次に、社内ベンチャーで難しいのは、どこまで起業家的(entrepreneurial)になることを期待され、また、許されているかという点である。ベンチャー企業は、顧客に対してこれまでにない特別なサービスを提供することで顧客を獲得するわけだが、まだ市場に存在していない特別なサービスを提供するにはリスクが伴う。社内ベンチャーはどこまでリスクを取ることが許されているだろうか。また、リスクを取って、成功した場合と失敗した場合の処遇はどうなっているだろうか。この点についても、社内ベンチャーのままよりも、子会社を作る方が対応しやすい。

 アメリカの家庭用製品メーカーであるプロクター&ギャンブル(P&G)が、これまでの標準化された大量生産の商品を売るビジネスモデルと全く異なる、顧客一人一人の肌に合ったカスタマイズ化粧品を売り出そうとしたとき、reflect.comという子会社を設立したが、その際、P&Gが出向社員にドット・コム型企業の性格をすべて兼ね備えた人材のみを選び、かつ、P&Gに戻らないことを条件にした。片道切符の出向にすることで、起業家的体質を持たせようとしたのである。

 社内ベンチャーにおける意思決定メカニズムは、迅速で柔軟なものになっているだろうか。ビジネスをめぐる状況がめまぐるしく変わる環境では、意思決定は迅速で柔軟でなければならない。一々稟議書を書いて、取締役会の承認を取らなければいけないようでは、変化についていけないのではないだろうか。

 一般的に言って、従来型のドット・コープ企業の企業風土をドット・コム企業の企業風土に転換するのは極めて難しい。仮に可能だとしても、1年や2年で実現できるものではない。そこで、アメリカにおいては、従来型の大企業は、独立した子会社をつくり、そこでドット・コム文化を実現させるという手法を取るのが一般的である。そして、子会社のドット・コム企業の使命は、親会社のドット・コープ企業を攻撃し、市場でどちらのビジネスモデルが勝つか、競争することである。

 社内ベンチャーを成功させるためには、ベンチャービジネスに適した生息環境を整えるのが何よりも重要であり、そのためにはどのようなリーガルフレームワークが望ましいかという視点が必要なのである。
高木文堂(高木ぶんどう外国法事務弁護士事務所 ニューヨーク州弁護士)
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