ジャーナル


法律情報サービスの果たす重要な役割
――自己統治の基礎を確立するために―― 全3回
第1回 第2回 第3回

第1回 思いを形にする時
弁護士 牧野 二郎
 弁護士の敷居が高いと言われつづけて、一体どれだけの月日が流れてきたのだろうか。市民と弁護士の距離は少しは縮まったのだろうか。弁護士もまた市民の一人に過ぎないのだが、なぜか遠い存在なのだ。弁護士も市民の一人であるし、とりわけ司法試験を受ける時には、みな市民としての感覚を持ち、市民のために役立つものでありたいと思っている。ところが弁護士になった途端、遠い存在になるのである。なぜだろう。何がそうさせるのか。


 なんだ、話してみれば普通の人じゃないか、もっと恐い人かと思った。

 馬鹿いえ、当たり前に決まっているだろう。霞を食ってる訳じゃない。

 そうは言っても、豪勢な生活しているんだろう。サラリーマンとは違うよ。

 給料ないんだぞ。その辛さが分かるか。いってみれば日雇いさ。

 しかし弁護士費用は高いな。月給の何倍にもなる。そりゃ絶対楽さ。

 あのね、事件は毎月必ず入る訳じゃないの。2月、8月は日照りだよ。

 あそー、結構辛いんだ。それで効率の良い事件しか取らないってわけだ?

 違う。効率の悪い事件は、現実問題として受けたくても受けられないの。

 でもさ、弁護士って言っても、何も知らない奴いるでしょう。馬鹿みたいなのが。

 いるよ。だって、俺らは何でも屋だよ。いろんな事して食っているんだから、幅が取り柄さ。

 でもね、この社会、馬鹿は要らないよ。馬鹿な弁護士じゃ、暴力団とかわらない。

 そりゃ言い過ぎよ。せいぜい政治家、くらい言ってよ。人気商売ってとこかな。

 でも、そんな弁護士に命や財産、預けられないっしょ!やばいよ。

 そうね。弁護士の俺が言うのもなんだけど、俺なら日本の弁護士には仕事頼まないね。

・ ・・・・・・

・ ・・・・


 正直に言おう。市民は弁護士を恐れている。できれば遠ざけていたい存在。係わりたくない人種である。しかし、絶体絶命のピンチにいたれば藁(わら)にもすがる思いで、頭を下げる外ない。弁護士に知り合うことはまずない。断られたらおしまいだから、必要以上のおべっかを使う。卑屈と思うほどのへりくだりもする。力を頼みにするのだから、暴力団員に頼むのとどっちがとくか、秤にかけてみる。まあ、質の良い知的暴力団と言った程度のもの。
 では、弁護士の側はどうか。一見(いちげん)さんには気を付けろ、というのが古くからの習わし。一所懸命に仕事をしても平気で弁護士報酬を踏み倒す、気に入るようなアドバイスをしないと弁護士を敵だと思う。甘いことを言う弁護士を探してさまよう。弁護士が強硬な債権者や暴力団と対決して身も心も疲れ果 てても、意に介しない。当たり前だと言う。ノウハウの大切さも、弁護士の才覚も「分かっちゃくれない」のが現実でもある。

 どうだろうか、この感覚が本当だとすれば、絶望的ではないのか。


 思いを形にする、と言い出したのは、こうした隔たりに気付き、これを解消しようと様々な試みをしてきたメンバーであった。様々な試みは、善意に支えられ、一定の成果 を生みはした。だが、現実の障害は何も変わることがなかった。このもどかしさの中で、このメンバーを支えたのは、他ならぬ インターネットであった。インターネットは情報障害を突破する力を秘めた見事な「ツール」なのだ。これが新しい情報時代を作ることは明らかだ。これが使えないはずはない。ここに思いを形にするきっかけがあった。

 議論を重ねた。何が問題なのか。どこを変えるべきか。
 市民は気軽に話せる専門家が欲しいはずであるし、その要望は企業にとっても同じである。本当のプロフェッショナルが欲しい、と言うことだ。金と引き換えの権威や権力、押し出しを求めている訳ではない。また、それに応えてはならない。
 弁護士は市民が思う以上に、専門家としての専門的素養を身につけたいと念願しており、そのように自分を鍛えてくれる事件を熱望している。勉強熱心さにかけては人後に落ちない。能力においても自信がある。それなのに、なぜ本当のプロになれないのか、それが弁護士の苦悩と諦(あきら)めの実態である。

 一つの試論。弁護士情報の公開、自由な情報交流、自由競争と切磋琢磨。
 まず、こだわりを捨てて、情報交流を始めること。良く知ると言うことが、問題解決の前提であるはず。法律情報を求める市民と、法律情報や法的サービスを提供できる弁護士との間を、クリアーに、そしてオープンに、交通 整理する。情報が行き来することで、自体は大きく変化するに違いない。
 不信感は相互理解のもっとも大きな障害だ。まずは、その不信感を取り除こう。そのためには、互いのことを良く知ることが必要なのではないか。そして理解し合うことが必要なはず。果 たして可能か。その第一歩を今踏み出そうとしている者達がいる。


 思いを形にする・・・思いが深い時、形も様々になるだろう。

 思いを形にする・・・誰かが進めなければ、見えてこない。形にはならない。

 思いを形にする・・・少しずつでも良い。着実に進めよう。そう、それで良いはず。


 勇気ある君達に、心からエールを送る。そして、私は力の限り、君たちを支える。

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