ジャーナル


個人情報の保護をいかに考えるか
 個人、企業、メディアにおけるそれぞれの問題点
はじめに

個人情報保護とメディア
田島泰彦(たじま・やすひこ/上智大学教授/憲法・メディア法)

 政府の個人情報保護法制化専門委員会の手による、個人情報保護基本法のプラン策定作業が大詰めを迎えている。6月の大綱案(中間整理)に続いて、今月8日には大綱案(素案)が公表され、現在今月末の最終案取りまとめに向けて最後の議論が進められているところである。
 官民を包括した基本法の制定を図る素案は、利用目的による制限、適正な方法による取得、透明性の確保など5つの基本原則を、個人情報保護の「自主的な努力」として何人にも求め、また個人情報取り扱い事業者に対して、利用目的による制限と適正な取得、適正な管理、本人情報の開示・訂正、苦情の処理など9項目に及ぶ義務等の規律を課すとともに、政府に個人情報保護に関する基本方針の策定、苦情処理の窓口設置、主務大臣による事業者への報告徴収、改善指示等の一連の権限を付与している。
 素案に示された構想には、国民総背番号制への危険や警察の犯罪歴情報の流出事件などを考えただけでも本来求められてしかるべき、政府保有の個人情報に対する規制強化の方向が窺えない一方で、多種多様な活動を含み、私的自治や憲法上の権利との調整も求められる民間事業者を一律包括し、広範な規律を義務づけ、強力な規制権限も政府に与えているなど、問題が少なくない。
 取材・報道活動の扱いもその1つである。
 素案が提示された段階では、報道機関等との調整として、適用除外の4つの選択肢が提示されていたが、その後の議論では、基本原則は報道機関などにも適用する一方、義務規定からは除外するが、苦情処理については自主的な苦情処理機関の設置を求めるという方向であることが伝えられている。他方で、新聞・通信・放送の3団体、メディア314社は、8月に「報道に関する個人情報を基本法の適用の対象外にするすることを」求める異例の共同声明を発表している。 
 表現の自由や報道の自由という憲法原理を踏まえるならば、取材・報道目的でメディアが保有する個人情報は、政府の統制から解放し、法規制の対象から包括的、全面的に除外すべきである。取材、報道の過程でその対象者に関わるさまざまな個人情報を扱うメディアが、対象者への開示・訂正等の保障を含む基本原則や義務規定をストレートに適用されることになったとしたら、その取材・報道活動が著しく制約され、重大な支障を来すことになるからである。
 たとえば、汚職の疑いのある政治家に対する調査報道をする際、周辺取材で得た疑惑に関わる情報の利用目的を本人に予め通知することを義務づけられたり、メディアが取材・保有する情報について、報道に先立って政治家本人から開示や訂正を求められ、受け入れなければならないとしたら、およそ市民の知る権利に応える汚職の追及や真相の究明は困難となる。
 そもそも国民の知る権利に応える取材・報道活動に伴い収集・管理・公表される個人情報は、政府の統治目的や一般的な民間事業者の営利目的から保有される個人情報とは本質的に異なる扱いがされるべきなのである。また、メディアの権力からの独立と自立を考えると、取材・報道目的以外の個人情報も、安易に法規制の枠に組み込まない配慮が必要である。多くの場合日本がお手本とするアメリカも、メディアを直接法律で規制する方式をとっていないし、一般にメディアも規制の対象としているEUやヨーロッパ諸国でも、ジャーナリズム目的での個人データ処理につき一定の適用除外を認めている。
 専門委員会が義務規定からメディアを除外する方向にあることは評価されてよいが、法的拘束力を弱めるとはいえ、基本原則を適用したり、主務大臣が個人情報の取り扱いにつきメディアに報告を要求し、改善策を指示したり、自主的な苦情処理を法律で求めたりするとすれば、問題である。メディアが監督官庁のもとに置かれ、その下で苦情処理を含め、また行政指導のような手法も駆使して、公式・非公式にさまざまな政府の介入と規制を受けるだけでなく、将来の規制強化、拡大の足掛かりにもなるからである。

 メディアへの法規制が回避されなければならないということは、個人情報保護についてメディアが何の取り組みをしなくていいということを意味するものではない。メディアは報道機関としての公共的役割から、その社会的責任を果たすべく、個人情報をしっかり保護し、市民の適切なコントロールを保障する保護制度を真に自主的・自律的な形で導入・整備する必要がある。とりわけ、第三者的な要素を組み込んだ公正な苦情救済システムを社の内外に設置することが肝要である。また、情報公開や人権救済制度の整備など、市民のアクセスを拡充する関連の課題に全力で取り組むことも求められよう。
田島 泰彦 上智大学文学部新聞学科教授(憲法・メディア法)

編集部参考資料
 
参考サイト
個人情報保護法制化専門委員会(〜首相官邸)
議事要旨や大綱案など。

日本新聞協会
意見書、他。

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