| 医療訴訟レポート 全6回 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師) |
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| 医療訴訟レポート 第6回 ダブルライセンサーの未来 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
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| インターネットで医療と法律のはざまに起こる出来事を扱う仕事をしているとホームページを開いていると、色々な方からメールをいただく。そのような中で、医学生や若手医師からしばしばいただくのが、私も先生のように医師兼弁護士として仕事をしてみたい。ついては何かアドバイスを貰えないかというメールである。最近は司法試験も合格者増員でかつてのような針の穴を通らなければならないという試験ではなくなってきた。だから私のような出戻り阿呆学生でも合格できたのだが、毎年司法修習生に一人や二人医師資格を持つ者がいるようである。いま資格のインフレ現象で医師も値打ちが日に日に下がっている。大学の医局、関連病院、団塊の世代が管理職に居座って、なかなか椅子が空かない。そうなると付加価値を求めて、あるいはスピンアウトしてダブルライセンサーを目指そうという人間も増えて来るという話になる。今回は彼らへの返信でもある。 司法研修所の実務修習で検察庁をまわっていたころだ。司法修習生の世話係のO総務部長が「法律のひろば」という法務省系の法律雑誌に掲載された面白い論文があるから読んでごらんと教えてくださった。一九九六年八月号と九月号に筑波大学の綿貫芳源名誉教授が書かれた「弁護士資格をもつ医師の養成(1)(2)」である。本論文によると、現在米国では、医師と弁護士の資格をもつ人は、約二千人といわれている。これらの人は二つの事務所をもって、一週のうち一定の曜日を医療の診療にあて、別の曜日を法律実務にあてている本来の「二足の草鞋」もいるが、政府機関、学界や業界にはたらき、保険会社、病院や健康管理会社の上級管理の地位を占める人が少なくない。これは、二つの資格を取得しても、この資格を生かして開業することは、いずれも患者または依頼者との継続的信頼関係を必要とすることから、実際上種々の困難を伴うからであろうと綿貫先生は分析しておられる。私も弁護士開業当時、病院勤務によって動けない日があってクライアントに急ぎの相談に応じることが出来ないことが多く苦労した。物理化学に質量一定の法則とかエネルギー一定の法則というのがある。決まった量の能力を二股に発揮すれば、ひとつのジャンルに投入できる分は半減させる外ない。まだ自分が苦労して都合をつけることができる部分は良い。裁判所から指定される期日の請け方につらいものがあった。当初、週二、三日の病院勤務で、弁護士稼業もしっかりと思っていた頃である。病院勤務日が火、木、土としよう。土は裁判所も休日だから良い。問題は開廷日が火、木という部に事件が配点されたときだ。証人尋問等でどうしても証人が火、木は駄目というような場合は、月、水、金に臨時に法廷を開いて審理をしてもらうことが可能だ。ただ、通常の口頭弁論に自分のためにだけ、法廷を開けとは言えない。結局、病院に臨時の休みをいただき、法廷に臨むということが多くなり、現在法律家稼業にほとんど軸足を乗せざるを得ないのはこのような事情だ。二足の草鞋と言うは易く、行うのは難しである。 それより何より難しいのは、法律家になることが医療者であることになんらのサポートにならないことだ。綿貫論文でも医師で法律相談所を開設している弁護士兼放射線医師のM.Flamm氏の「弁護士資格が医療過誤訴訟に対する楯になるという考え方は現実的でなく、それを忘れなさいということである」というアドバイスが引用されている。これは非常に常識的見解である。手練といわれる究極の専門医でも医療訴訟は免れず、敗訴の憂き目を強いられることが少なくない。医療技術の修練に刻苦精励する医療者は、いくら米国の司法試験が易しい、日本の司法試験が易しくなったとはいえ、法曹資格に容易にアクセスできるとは思えない。結局、医師兼弁護士のダブルライセンサーはどちらかの資格に軸足を置き、実際は命懸りにならない法律家の仕事を優先せざるを得ない。ダブルライセンサーの先駆けであるD医大のT教授は司法修習後弁護士資格を得て、一、二年の弁護士経験を経た後、やはり医師の本道をと東大でリサーチをやりなおし、結局医学研究者、医大教授の道を選ばれた。同教授は、法律家の「口舌の徒」性と法的紛争のおどろおどろしさがどうも馴染めなかったようだ。弁護士も長い権利闘争の結果、依頼者に感謝の意を表されることはあっても、入院した患者さんがニコニコと退院していくようなほのぼのとした雰囲気にひたれる医師の生き甲斐とは遠いものがある。 このような難しい事情、経済的状況をすべてをメールでの質問者にお答えすることは困難だ。ダブルライセンサーの多くは、医療訴訟領域に従事する場合は、主に被告側、医療者側につくことになる。二股、鵺の私は異端児だ。医療側とて経営的に楽ではない。米国の二千人には及ばず、日本のダブルライセンサーは二桁の下の方、せいぜい二、三〇人多くて四、五〇人程度だろう。将来、六〇人になって、六百件の新件を六〇人で分けてひとり当たり十件である。事務所を抱える財政的基盤にはなるまい。そういう意味では、大して新規開発のメリットのあるジャンルではない。世のメガコンペティションの流れは、まさにビッグバンであって、安直な河岸探しなんぞを許すものではない。それでは、あなたはどうしてそんな引き合わないなりわいを続けるのかと問われるかもしれない。最後の最後までモチベーションを絞れば、希少価値の自分でこそ実体験できる不思議体験ゾーンがあるという自己満足か。それほど腹の足しにもならないが、餓えることの少ない当世にあって、楽しきゃいいじゃん。という小ギャルの乗りである。良かったら、参入してみますか。 |
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| 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師) 〒005-0812 札幌市南区川沿12条5丁目1-11 TEL/FAX 011-572-6284 HP「医療と法律の談話室」http://www.aurora-net.or.jp/~dns05127 |
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