| 医療訴訟レポート 全6回 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師) |
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| 医療訴訟レポート 第4回 医療訴訟−被告代理人の風景 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
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| 医療訴訟の原告代理人が非常に厳しい条件のもとに受任し、悪戦苦闘しなければならない事情は前回に書いた。これに比べ被告代理人は条件的に恵まれていることが多い。医療訴訟の被告、つまり訴えられた病院や医師を守る弁護士の多くは、医師会の顧問弁護士、損害保険会社(医師賠償責任保険)系の弁護士、各病院・医師の顧問弁護士、あるいはエスタブリッシュした老獪な弁護士、どのような縁で受任されるにせよ彼らは余裕たっぷりである。医療はすでに斜陽産業化し、他業種並に銀行の貸し渋りにもあっているものの、多くが孤立無援で軍資金を調達して、不採算部門の原告弁護を引き受けてくれる奇特な弁護士を探さなければならない原告(予備軍)よりも被告の方が経済的にも、情報量でも優っている。経済的には、ほとんどの病院、医師が医賠責保険に加入しているために、弁護士費用を心配する必要はない。顧問弁護士を雇っていない病院、医師には損保会社が自社関係の弁護士を紹介してくれる。医師会や損保会社系列の弁護士の外から受任してくれる弁護士を見つけてきても、リーゾナブルな弁護料ならば医賠責保険の給付としてちゃんと費用が出る。訴訟は法廷での血を流さない闘いである。本物の合戦で矢弾が飛び交うかわりに事実の指摘や論理の展開が繰り広げられる。方法が戦争か平和的手段かの違いがあるだけで、軍資金が大きな鍵となる。この点、医療訴訟は出発点から原告は劣勢、被告は優勢ということになる。是々非々系の私の受任比率は原告八に対し被告二の割合だが、被告の弁護は費用の心配をしなくてすむ分は楽である。 ところで、原告代理人となることの多い私から見た被告代理人の姿はどのようなものであろうか。一言で言えば「権柄ずく」である。なぜ権柄ずくになるか。ひとつめの原因は、医師と弁護士の専門家至高主義の相乗効果である。ロートルで守旧派の医師は、診療行為に口を挟むことを嫌悪する。素人に何が分かる。必死にお前の身体を診てやったのに提訴するなど以ての外だ。これを代言するのが、これまた専門家としてお偉い大先生、エスタブリッシュメント弁護士だ。それでなくとも依頼者のトーンと同じく成り勝ちな代理人が、これまた依頼者の性格傾向に良く似ていて、これを相乗効果で倍化させる。否認、抗弁はどの訴訟でも被告のお手前だが、特に医療訴訟の被告は重箱の隅をつつくような細かい求釈明を連発する。医師の医学的権威に逆らうならば、とことん査問して潰してやるぞという意図がありありである。私は医師でもあるので、嫌味をされる問題点をクリアーしていく毎に山を越えていくような気持ちの良さを感じるが、そのようなストックのない原告側弁護士には嫌な煙幕だろうと思う。裁判官も医学の素人だからこれを煙に巻く意図もありそうだ。重箱の隅をつついて穴を開ければ、中身を流してしまえると考えている風である。 もうひとつ医療訴訟の被告代理人が権柄ずくになる理由は、心理学でいう反動形成である。表に出る医療過誤は氷山の一角である。探られて痛い腹、ちょっと押されれば痛い脛の傷、叩けば出る埃。病院や医師は嫌ほど持っている。それを図星で指摘するのが、医療訴訟だ。人は痛いところを指摘すると、謝る人は謝る。謝れない人は、開き直る。損害賠償訴訟は、生じた金銭的損害を補填しろというものだが、原告らの多くは殺された、障害を残されたとリベンジするのだ。医療側も善意でやったこと、専門家の見識がかかった行為だ。容易にごめんなさいとはならない。このようなジレンマから、どうしようもない傲慢主義を法廷にさらすのだろう。私も医師の一員でありその辺の心理は分からなくはない。 それでも、最近少しは上品な被告代理人も増えてきている。インフォームドコンセントや情報公開といった時代の要請は、医師や弁護士も聖域にしない。傲慢にやればやるほど墓穴を掘る結果になりはしないか。少々先の見えるプロは気付いてきている。私がインターネットで知り合ったUさんという女性は、末期癌の母親がインフォームドコンセントもなく専断的な治療で苦しんで死んだと病院を訴えた。彼女は放送関係のフリーランスで表現活動やインターネットに強いというパワーを発揮して、すべての訴訟過程を自分のホームページに掲載した。IT革命真っ只中の現在、マスコミの力を借りずして、リアルタイムの実況中継が可能だ。法廷で、訴状陳述、答弁書陳述、次回期日もにゃもにゃ程度で終わってくれれば、被告は棄却しろ、否認、抗弁の連続で済むかもしれない。マスコミ報道もせいぜい提訴時にすぎない。ところが、応訴態度、片言隻句、すべてホームページに公開されれば、事実上相当のアカウンタビリティを発揮しないと病院経営に大影響だ。私が被告の代理人ならば、原告に対抗するホームページの立ち上げを推奨したいところだ。このような状況が進めば、強面、権威主義、威圧で吹き飛ばし作戦等で被告が医療訴訟に対応していくことは難しくなる。すでに病院は選択の時代に入っている。トラブッたときにどう対応するかも患者の強い関心になりつつある。関係が良いときは猫撫ぜ声で、医療訴訟が生じれば居丈高に蹴り返そうとする病院が患者から選好されるとは考えにくい。仮に医療訴訟が起こったとしても、ジェントルに合理的な説明を繰り返す。ホームページに訴訟資料を掲示され多くの人々がこれを読んだとしても、これじゃあ被告の病院や医師がかわいそうだねとなれば良い選好材料となる。被告側弁護士について大きなパラダイムシフトが求められている。私自身、医療側を引き受けた場合は、依頼者へのインフォームドコンセントと同様に、相手方、社会へのアカウンタビリティを重視しなければならないと自戒している。 |
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