| 医療訴訟レポート 全6回 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師) |
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| 医療訴訟レポート 第3回 医療訴訟−原告側代理人の風景 竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
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| 先日、弁護士会が編集した市民向けの弁護士名鑑に目を通してみて気がついた。各弁護士のプロフィールや抱負の欄に、医療訴訟に取り組みたいというのが少なくないことだ。このような標榜は、原告予備軍たる医療被害者にとって心強いことこの上ないということか。いやいや決してそういうことではない。私は格別
に医療訴訟を専門にやりたいですと標榜しているわけではないが、医師兼弁護士ということで、医療事件の集積性は高い。医療による被害を受けたという患者さんや家族がよくやって来る。相談の場でよく耳にするのは、医療者への憤りと同時に原告側代理人弁護士への腹立ちである。AさんはF産婦人科病院ばりの乱診乱療で子宮を摘出されたと来訪された。Aさんに話を聞くと医者にも医者の判断根拠がありそうにも思え、簡単にご本人の言う通
りの主張にはなるかどうか分からない。そのようにご説明しながら事情を聞いていくと、彼女が怒っているのは主治医も主治医だが、原告側弁護士に対してなのだ。三年程前に彼女の話を聞いて、某弁護士はしばらく検討してみると事件を預かった。ところが、いつまで経っても見通
しは明らかにならない。ついにしびれを切らした彼女は、弁護士会に紛議調停の依頼を申し立てたが、黒白ははっきりしないまま時は過ぎた。私が受任したときは、不法行為の時効期間の三年はすでに過ぎていた。一例だけならレアケースかとも思うが、このような事例は次々と耳に入る。出産事故で愛児を失ったBさん夫妻が相談した原告側弁護士の場合には一年半放置されている。Aさんの場合は、一銭の着手料も取っていなかったから、憤り程度で済んだのだろうが、着手料を取って時効になるほど事件を寝かせていれば懲戒ものだろう。Bさんの場合は、五十万円ほどの着手料を取っていた。本人たちも医者の次は弁護士かと二次被害を嘆いていた。弁護士が他の弁護士が既に受任した事件に介入することは、弁護士倫理上戒められている。何とかBさんたちは抱え込み弁護士に縁切りを申し出て、着手料を返還してもらうことが出来て、私が彼らの事件を受任し、証拠保全を行い提訴した。 なぜ、このようなことが頻繁に起こるのか。当事者の弁護士たちに直接聞くことは出来ないが、ぼんやりと聞こえて来る事情がある。ひとつは、医療事件は専門的知識を必要とすることである。通常の売買や金銭貸借の事件ならば、契約書や領収書、その他証言等の証拠もポピュラーで、当事者の主張もわれわれの日常生活に根ざした常識的なストーリーで理解はし易い。交通事故のような不法行為事件でも、自殺でもない限り過失や損害等の立証は比較的容易だ。しかし、医療訴訟は難しい。過誤がなくとも、通常の自然経過で患者の悪化や死は生じうる。実務的に立証責任は原告にあるとされる。中途半端なチャレンジは、否認や抗弁で容易に返り討ち状態に陥る。従って、原告予備軍に相談を受けた弁護士は慎重にならざるを得ない。被告側弁護士なら被告である医師や医師会等からサポートを受けることは非常に容易である。原告側弁護士はそれなりのフィーを払って味方になってくれる奇特な医師からサポート意見を入手しなければならない。ところで、ここにふたつめの問題である費用問題がからむ。本人が死亡したあるいは意識がない、このような甚大な被害を受けた依頼者から高額な着手金は取れない。医療訴訟は長い。最低、二年、三年はかかる。しかし、費用は期間に比例してかかる。着手時百万円いただいても、三年で割れば三十万円。月あたり二万なにがし。大学生の家庭教師程度のフィーだ。提訴前に医師の意見を聞くだけではない。必ずといってよいほど出て来る話の鑑定についても、費用は予納金として準備しなければならない。物入りな原告から高額の弁護料は取れない。したがって、私のように原告側の事件が大半を占める医療弁護士は貧乏ひまなしが当たり前になる。SOHOで費用のかからぬ
家内企業でやりくりし、医者として勤務する若干の給与で補填して何とか操業している姿がすべてを物語る。 それでも専門化してはやって行けない原告側医療弁護も他の事件とならしていけばやっていけなくはない。各地に医療弁護団風のものが出来ているのは、医療訴訟をコストパフォーマンスを理由に日陰にしてしまわないという弁護士たちの心意気によるのであろう。内容的にもコスト的にも困難な医療訴訟をあえて引き受ける受け皿という意味では、最初に指摘したような事例が少なくないにもかかわらず、やはり重要なものと思われる。勝訴率も勝訴的和解を含めても三、四割という厳しい闘いである。もともと勝算を度外視しなくては、チャレンジ出来ない勝負である。そして、最も大切なことは何かと言うと、これは医師と同様である。インフォームドコンセントだ。冒頭の事例のように、十分なインフォームドコンセントを欠いた弁護士活動は、医療過誤と同様にクライアントによる厳しい指弾を免れることは出来ない。現在、弁護過誤訴訟を免れ得ているのは、医療過誤訴訟の低勝訴率や弁護士の相互監視(ピアレビュー)が緩いだけのことである。弁護過誤を専門とする弁護士さえいる米国では、勝ち目のある医療訴訟をビハインドに説明しただけで有責の判断をされた弁護士もいる。医療過誤の被害を受けたと人々が集う市民団体のオブザーバーをしていてしばしば耳にする言葉は、「医者が許せない、そしてまた許せないのが弁護士だ」というものである。医師兼弁護士としてはまり込んだ蟻地獄のような困難を当面 三昧していく外ない。私は逃げずに、この要求水準を満たして行こう。医師に厳しい医療水準を要求するならば、弁護士も自らに厳しいバーを設定しなければならない。 |
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