ジャーナル


医療訴訟レポート 全6回
竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
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医療訴訟レポート 第2回
インターネット医療法律相談の体験
竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
 医師兼弁護士となった私は勇躍二足の草鞋生活を開始したのであるが、前回も書いた通 りライセンスの数で易々と仕事が軽快に回って行くほど世の中は甘くない。大体、身過ぎ世過ぎが上手ならば、こんな変ちょこりんなモラトリアム人間などにはなってない。さっさと生一本でエスタブリッシュいるはずだ。兵糧も段々と尽きてきて、二足の草鞋どころか一足でも失速しそうなところ、最後は偏屈な弟子でも救ってやろうという大先生にイソ弁もどきのパシリをさせていただいた。なんとかSOHO(Small Office Home Office)暮らしは沈没を免れた。もちろん、細々と入ってくる相談やその中で微かな率で受任する事件の着手料、一週間に二日、三日勤務する老人病院の給与、ついには女房も看護婦勤めをはじめ、なんだかんだ合わせてやっと暮らせる程度の生活だ。「弁護士も医者も両方なんてゼイタクですね。さぞかし立派な暮らしをしておられるんでしょうね」などと知り合いに振られても、嫌味かはたまた誉め殺しかと当時は随分とひがんだものだ。しかし、船はすでに出帆しているのだ。いつまでも鬱々していてもしょうがない。当たって砕けろだ。そのように気持ちを持ちなおした頃に始めたのがインターネット医療法律相談の試みだった。今回はこの時の経験をご報告してみたい。
 平成九年八月、私は新天地を求めてインターネットにホームページを開いた。敷居の高い弁護士の世界は、医療者の世界から闖入した私にとって不可思議な世界だった。人権、公正と声高に叫ばれる一方で、市民が権利を侵害されたと思ったときに駆け込む場所もよく分からない。健康保険制度の矛盾は様々論難される中にありながら、誰でも何処でも医療機関にアクセスできる現実はある。弁護士も誰に頼もうと自由なことは法制上同様だが、インフラは業界内部の広告規制など(あまりに硬直化した広告規制はこのたび原則自由となった)目も当てられない実情がある。私は新しい世界への闖入者となり、新世界への適応も危ぶまれる時期であった。内心、このようなスタンドプレーと見られかねない行動は決して得ではなかろう、雉も鳴かずば撃たれまいの気持ちは強かった。弁護士界一本でストレートで来た人間なら、そう考えて賢く広がる途を考えただろう。しかし、横道から入りこんだ私にとって、医療界の守旧性、ギルド制に比して弁護士界、法曹界の内向性はより凄まじいものに見えた。ままよ、ここでも私は臆病なくせに、しっかりと道を踏み外すそれまでの習性を発揮した。弁護士会の広告規制ルールに引っかかるならば、とことん市民原理でその合理性を問えばよいではないか。そうして、インターネット医療法律相談は始まった。八月中旬に立ち上げた無料相談は、一二月中旬の四ヶ月間続いた。
 四ヶ月間に寄せられた相談は延べ二四八件で、患者対医療者の比率は約六対四であった。面 白いのは患者と医療者と分けて書いてみるが、実は医療従事者が患者になって医療過誤でないかと相談を寄せた例も少なからずあった。専門家に厳しい時代というのは、素人のリテラシーが上がって専門家の優位 に簡単に屈服しなくなったという側面に加え、このように専門家たちの内部においても厳しい相互監視的契機が強まっていることをも示している。相談者が医療に通 暁していること、医療への要求水準が高いこと、その思いが裏切られたときにその反動が大きいことが推測される。今や業界内の甘えやもたれ合いは難しい。
 患者から寄せられる相談の大半は、自分や家族の受けた診療行為が医療過誤であることを疑い、これをどう法的プロセスに乗せればよいか、その際のコストパフォーマンスは、勝ち目はどの程度かといった類である。相談によって温度差はあるものの、いずれも医療機関に強い不信感を持ち、シュートできるものならしっかり医療側を撃ちたいという気持ちが伝わって来る。患者から寄せられた相談の残りはセカンドオピニオンを求めるもの、転医を求めるものに分かれる。このような相談にアドバイスすると、九割方はなるほどの返事が帰ってくる。いかに医療者が説明を欠いているかの実態を反映している。医師だけでない。弁護士も十分に説明しない、できない傾向は強い。専門家はしばしば専門用語に依存し、クライアントを煙に巻く。本当に高等な専門用語ならばまだしも、多くはジャーゴン(業界隠語)である。専門家が市民意識を汲み取るのは、市民集会に出かけて紋切り型のアジテーションをすることではない。市民が専門家に感じるうさんくささを普通 の言葉で説明し、分かってもらい、解消することだ。そのためにはメガコンペティションも必要かもしれない。面 白いことに医療者からの相談は、このような分かってもらうことの困難さを訴えるものが多かった。それが、専門家の被害感のようなものを生んでいるようだ。
 こうしてインターネットで相談に応じる生活を続けてみたが、日本の社会のゆがみも感じた。相談に応えてメールを送っても、礼状メールのひとつも来ない例も少なくない。情報サービスや知的労働に対する評価の低さを痛感した。ひどい例になると、先生は結構儲けていらっしゃるだろうから、ただで医療訴訟を受任して下さらぬ かというのやら、もっとすごいのは諸費用まで立替を所望するという者さえいた。結局、無料相談という形は、安かろう悪かろうの程度の対応しかできないこと、また相談者にコスト意識のない安易な依存心を醸成しかねないこと、真摯に仕事をするのはやはり安くとも適正なフィーで相応する仕事をするのが最も好ましいと考えるに至り、一二月の半ばで終わりにした。後日談として有料にした相談について書くと、件数は十分の一ほどに減少した。しかし、内容は逆に非常に中身の濃いまともなものが増えた。インターネットは適応を考えつつ、その後も淡々と続けている。
竹中 郁夫(もなみ法律事務所 弁護士・医師)
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HP「医療と法律の談話室」http://www.aurora-net.or.jp/~dns05127
略 歴
昭和29年1月5日   和歌山県生
昭和51年 京都大学法学部卒業
昭和57年 信州大学医学部卒業
同年 医師国会試験合格医籍登録後大阪市立大学麻酔科入局
昭和58年9月 諏訪中央病院勤務
昭和61年6月 奈良県にて診療所開業
平成6年 司法試験合格
平成7年 司法研修所にて司法修習
平成9年 弁護士登録後法律事務所開業
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