ジャーナル


児童虐待を看過した行政との闘い
 −千葉恩寵園4年間の軌跡

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恩寵園事件の流れ
 
 今年5月26日、千葉恩寵園の前園長が傷害罪で逮捕された。
 子供達の家庭であるべき養護施設において長年虐待が行われていたこの事件は、1996年4月に児童達の集団脱走が起こり、園長による虐待の事実が公になってから4年後のこの日、一つの区切りを迎えた。
 この事件を支えてきたのは、「恩寵園の子どもたちを支える会」(浦島佐登志会長)という市民グループと、4年前の集団脱走の時から、子どもたちの代理人として、支援を続けてきた山田由紀子弁護士を中心とする弁護団である。
 この4年間の活動の中で、弁護士としてどういった活動をしてきたのか、山田弁護士へのインタビューを中心に事件を振り返ってみたいと思う。


住民訴訟というかたち

 この事件は非常に弁護士として活動しにくかった事件だったと山田弁護士は語る。
「最初は子供達から委任状をもらって、弁護士会の人権擁護委員会を使って救済申込をしました。ただ、これはあまり最終的には機能しなかったんですね。ですからある意味弁護士としては限界があって、市民の方に支えていただいて、私も半分は弁護士だけれども、半分は一市民としてやってきました。」
 その後、県に対する意見書の提出や署名活動等の市民運動を行いつつ、1997年7月、住民監査請求(下欄参照)、同年10月の住民訴訟(下欄参照)と続く。これには、東京弁護士会の子供の権利委員や日弁連の福祉部会の弁護士らとともに弁護団を組んだ。
「今回は、子供達が(未成年のため)直接原告となれないという限られた状況であり、仮になれたとしても、親権の代行者が当の虐待を行っていた園長であるという皮肉な事案であるということもあって、住民監査請求、住民訴訟という形をとりました。市民運動としてはどうしても壁にぶつかってしまっていたということ。内部批判的な動きをしてくれていた職員さん達も97年春には全員やめてしまったこと。さらに内部告発をした子どもたちも園を追い出されてしまって、依頼人を失った弁護士となってしまったこともあります。しかし、起きた人権侵害事体というものは放置できないということで、県民として起こせる監査請求と、住民訴訟というのはやはり唯一残された道かもしれないと考えて継続してきました。」
 住民訴訟という形ではあるが、訴訟の提起は社会的に問題提起をする手段として、また市民運動を継続させていくための活動の軸としても重要であるという。

 今回の事件で特に問題だったのは千葉県の行政のあり方であった。
 子供達の集団脱走が起こる前の1995年8月に、児童相談所に恩寵園で虐待があるとの匿名電話があり、千葉県は調査の上虐待の事実を認め、園に対して指導を行っている。しかし園長には何の処罰もなく、実質的な改善もなされなかった。そして翌1996年4月に子供達が児童相談所に助けを求めるという集団脱走が起こった。そのときも県は子供達の話をじっくり聞くこともせず園に戻し、園長の解職を含む改善命令(児童福祉法四六条 下欄参照)を出すべき立場であるにも関わらず、園長の責任追求よりも職員に対して指導するばかりであったという。実際、今後体罰を与えないと約束した園長は、1996年10月に再び虐待を行っている。
 山田弁護士は、次のように語る。
「今回の問題で一番の問題というのは千葉県の行政の姿勢の問題です。事なかれ主義や、官僚主義や、子供の人権感覚への鈍さなど。
 個人の問題としては、いろいろな経緯の中から犯罪をおかしてしまうこと、子供を虐待してしまうことというのは一定の確率であることで、発生することそれ事体それほどの不思議はないのです。ただ制度として、機構としての行政、しかも法律に基づいての監督権限があるにもかかわらずやらないというのは、これはもうシステマティックに許せないことで、私はそこへの憤りの方が強い。そういった意味でも住民訴訟はぴったりでした。今回はじめる損害賠償請求(下欄参照)でも、園長一人への責任追求ではなく、法人の責任と行政の責任がタイアップしていかなければ意味がないですね。」


子どもの人権に対する社会の意識変化

 一方、園長の傷害罪、職員(園長の二男)の強制わいせつ、婦女暴行罪での逮捕と、今回、警察は捜査時の子供達への配慮も含めて予想を何倍も上回るような人員と、迅速性と、慎重さでがんばってくれたと、山田弁護士は感謝する。
「過去の古い事件であるため、通常なかなか立件できないのですけれど、たとえ一件でもきちんと立件することによって他をなくしていくという、家庭内虐待も含めて警察の意識が変わってきたという現れだと思いますね。
 4年前の時点でも、弁護士として刑事告発をするということはできましたが、当時と昨年秋とではかなり状況が違っています。やはり家庭内虐待やドメスティックバイオレンスに対する警察の意識と、機構改革的なものが、全くこの数年で変わってきているということですね。
 当時あの園長自身は非常にワンマンで、事態が発覚してもなお、行政が園長を責めることを全くしていませんでしたから、全く反省していませんでした。そこで警察が生ぬ るい捜査をして、不起訴、起訴猶予ということになった場合には、もう何も怖いものなくなるんですね。ですから、そういう結果 になるくらいだったら、やらないで、まだそれはうやむやにしておき、いつ告発するかわからない、証拠が揃えばやるという風にしておいたほうがまだよいだろうというふうに考えました。それで今までやらなかったのです。」

 今回、4年を経てやっと一つの解決のかたちを得られたのは、情勢の変化のほか、マスコミにより情報が広く市民に知られることの力があった。とくに、昨年秋からの日本テレビの「報道特捜プロジェクト」により、バラバラになっていた子供達と再びコンタクトがとれるようになり、被害にあった子供達の生の映像、生の声で社会にアピールすることができたことが大きいという。さらにこの番組を見て、以前の職員やボランティアといった事件関係者の声も寄せられた。警察もこの番組を見て、職権で何とかしなければという状況に既にあったという。そういった状況もあり、昨年12月の刑事告発にいたったのである。
 
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住民監査請求
社会福祉法人恩寵園に支弁した措置費のうち、園長の人件費に相当する部分の支弁が違法な公金支出にあたるとして、違法な支出によって県が被った損害を賠償するよう勧告することを求め、千葉県監査委員に対し、地方自治法二四二条二項(住民監査請求)に基づく監査請求を行ったが、この監査請求は棄却された。
 
住民訴訟
千葉県が社会福祉法人恩寵園に対し、児童福祉法五〇条七号に定める費用を支弁したことに関し、千葉県知事(被告)に対して園長の人件費に相当する額を損害金として県に支払うことを求めた。

請求は棄却されたが、園長による虐待の事実を認め、「遅くとも園児が集団で恩寵園を逃げ出したことを知った時点」で、被告は「園長の解職を含む指導体制等の改善をはかることを法人恩寵園に勧告すべき作為義務が生じ」、「右勧告をすべき状態は、その後も継続していたものと認められるから、被告が右勧告をしなかったことは違法」である、と認定された。

判決全文

参考条文
社会福祉事業法五四条
(都道府県知事他の社会福祉法人への一般的監督)
児童福祉法四五条
(施設の設備・運営の最低基準)
同法 四六条
(最低基準維持のための都道府県知事の権限)
同法五〇条
(都道府県の支弁)
同七号
(県が児童を児童福祉施設に入所させる措置を採った場合における入所に要する費用及び入所後の保護につき、施設の設備及び運営について最低基準を維持するための費用。)
 
損害賠償請求訴訟
今年3月、恩寵園の卒園生らが、前園長、社会福祉法人恩寵園、千葉県を相手に、虐待に関する損害賠償を求めた。現在継続中。

損害賠償請求訴訟の訴状

参考条文
民法七〇九条
(不法行為)
民法七一五条
(使用者責任)
国家賠償法一条
(公権力の行使に基づく損害の賠償責任)

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