ジャーナル


−独禁法違反のリスクは大企業に限らない−
独占禁止法に関わるリーガルリスクマネジメント
はじめに

成長企業が知っておくべき独禁法リスクマネージメント
畑中 鐵丸(中島・宮本・畑中法律事務所 弁護士)

1、独禁法は巨大企業の専売特許ではない

 先般、米国におけるマイクロソフト社独禁法裁判が話題になったが、「独禁法といえば巨大企業においてのみ問題になるもの」といった感がある。
 たしかに、独占禁止法(以下、「独禁法」という)は私的独占やカルテルに代表されるような市場独占行為を禁止しており、このような独禁法違反行為は一定の規模を有する大企業固有の問題といえなくもない。
 だが、独占やカルテル以外にも独禁法は「不公正な取引方法」も禁止しており、急激な成長を遂げるベンチャー企業の場合、「事業の拡大にコンプライアンス(法令遵守)体制が追いつかず、調べてみると営業の最前線では独禁法違反の不公正な取引行為の宝庫となっていた」、というような状況も散見される。
 本稿では、成長企業が知っておきたい独禁法についてのアウトライン・ポイントを簡単に説明していきたい。


2、独禁法のアウトライン

「企業活動とは利潤の極大化を徹底して追求する活動であり、これを野放図に行わせると、市場における独占・寡占状態が生じ、やがて競争自体に不公正が生じる」、という仮説は、資本主義における歴史経験として実証されたものであり、このような市場の私的独占を禁止することを目的として作られたのが独禁法である。
 そしてこの観点から、独禁法は(1)私的独占・(2)不当な取引制限(いわゆる「カルテル」)・(3)不公正な取引方法を三本柱として、これらの行為を禁止している。
 また、独禁法違反行為があった場合、そのリアクションは非常に厳しい。まず、無過失損害賠償責任という過酷な民事責任が負わされることになるし(独禁法25条)、課徴金(7条の248条の2)、さらには最高三年の懲役刑を含む刑事罰も課されることになる(89条以下)。
 刑事罰については、これまでの告発事例は2年に1回程度の頻度であり「眠れる規定」等といわれていた。しかし、日経新聞(平成13年2月19日)の報道によれば、公正取引員会は告発手続を簡素化して独禁法違反行為に対する刑事告発を「活発化」させる方向での改革を進めている。すなわち、今後規制環境が厳格になる方向で劇的に変化していくことが予想されている。


3、成長企業についても問題となる独禁法

 雇用の流動化、フランチャイズシステム、VC等の新しい金融手法、IT技術等「ヒト」「モノ・サービス」「カネ」「情報」の流れを効率化し、企業成長力を爆発的に加速させるようなビジネスインフラが整備されてきている。
 このようなインフラを効率的に活用すると中小企業が短期間に圧倒的な競争力を持ち、市場において優位性を築くことも十分可能であり、実際このような成功ルートを辿る企業は確実に増加している。
 しかし、急激な成長に、「企業の組織体制」・「取引システムの整備」・「最前線の従業員の意識改革」等が追いつかず、知らず知らずのうちに「優越的地位の濫用」「取引妨害」「内部干渉」「拘束条件取引」「排他条件付取引」等、独禁法上「不公正」として禁止されるような各取引方法に手を染めてしまっている企業が多く散見される。特にフランチャイズ方式により事業拡大を行っている企業の多くは、多少なりともかような独禁法違反該当行為に近い活動にコミットしている経験があると思われる。


4、コンプライアンスプログラム

 このように、中小企業といえども成長過程において独禁法違反リスクは無関係ではありえない。ただ、独禁法については複雑な経済活動に対応して禁止行為も多岐にわたっており、かつ正当な事業活動とのボーダーラインが極めて曖昧であり、法律専門家でさえその適否判断は困難を極めるというのが現実である。ましてや士気にあふれる最前線の営業社員に厳密な法律判断を求めるのは全く不可能といって過言ではない。
 独禁法先進国アメリカにおいては、各企業は「コンプライアンスプログラム(法令遵守プログラム)」というシステムを活用し、このようなジレンマを解決している。これは「企業の事業活動全般を調査・分析し、独禁法違反に発展しそうな営業活動を洗い出してオーダーメイドで現場従業員用の倫理綱領・啓蒙資料等を作り、法令遵守を徹底させることにより独禁法違反リスクを低減する」、という仕組である。
 日本でも最近コンプライアンスプログラムを導入する企業が増えてきていたが、未だ「法律一辺倒で、現場で全く使えない杓子定規のコンプライアンスプログラム」というものが多い。
 弁護士人口が多く人材豊富なアメリカでは、ビジネス経験を有し経済・経営に明るい弁護士も当然多い。そしてこういう「ソロバン」にも長けた独禁法専門弁護士が複雑多岐な事業活動全般を細部に至るまで調べた上で「違反リスクを最小限に抑えながら過酷な競争を勝ち抜くための実践的・戦略的なコンプライアンスプログラム」を作り上げ運用しているのである。
 とかく、「競争がなく」「保守的で」「世間知らずで」「ソロバンに疎い」と言われる(これらはおそらく真実であろう)日本の法曹界も、このような戦略的コンプライアンスを企画・設計・運用できる人材を豊富に輩出できるよう、まずは「自らの業界自体の競争制限的現状」を問い直す必要があるのかもしれない。
畑中 鐵丸(中島・宮本・畑中法律事務所 弁護士)
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編集部参考資料
 
参照条文

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

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