ジャーナル


ビジネスモデル特許、その将来性を探る!
はじめに

ビジネスモデル特許の権利行使上の問題点
加藤 貞晴(加藤法律特許事務所 弁護士・弁理士)

1. 総論
ビジネスモデル特許を取得しようとするからには、単に権利化するだけでなく、同じようなビジネス方法を行なっている相手方に対し権利行使したいと考えるのは当然である。
具体的検討に入る前に権利行使に関する特許法の基本的な仕組みを概観することにする。
特許権者は業として特許発明の実施をする権利を専有する(特許法68条)。従って他人が正当な権原又は理由がなく特許発明を実施した場合は特許権侵害となる。ここで「特許発明」とは特許を受けている発明のことをいう。いかなる発明について特許を受けているかについては特許法70条が定めている。また「実施」については特許法2条が定めている。そこでは物の発明と方法の発明に分けて定められており、物の発明についていえば「生産」「使用」「譲渡」「貸渡」「輸入」等である。方法の発明についていえば、その方法を使用する行為である。なお、属地主義により日本の特許法に基づいて取得した特許権の効力は日本国外に及ばない。従ってここにいう「実施」といえるためにはそれが日本国内でなされたことを要する。例えばアメリカで生産しても日本の特許発明の実施になることはない。また、特許発明の実施とは特許発明の構成全体の実施をいい、その一部のみの実施を含まない。但し例外として間接侵害が定められている(特許法100条)。具体的には物の発明についていえば「業として、その物の生産にのみ使用する物を生産等する行為」、方法の発明についていえば「業としてその発明の実施にのみ使用する物を生産等する行為」を間接侵害行為としている。

2.前置きが長くなったが、そもそもビジネスモデルそのものはビジネスのやり方であり有体物ではないため権利範囲というのが可視的でない面がある。しかもビジネスモデルが特許と認められるためには、少なくとも現段階の日本ではそれがコンピュータなどのハードウェアを利用するものであることが必要であるため、相手方もハードウェアを利用してビジネスを行なっている場合でないと特許権侵害とはなり得ない(この関係で相手方がフロッピーディスクを製造販売するだけで、後はそれを購入したユーザーがパソコンにインストールする場合、フロッピーディスクの製造販売はクレームとの関係で直接侵害にはなり得ず、間接侵害の成否が問題となるだけではないかということが議論されている。しかし、この点は平成9年4月1日以降、プログラムを記録した記録媒体もクレームすることが認められたため、少なくとも現在は記録媒体もクレームに加えることによって問題はなくなった)。ところが近年ハードウェアの性能は飛躍的に向上している。以前は別途ソフトを購入しインストールすることによって実現された機能が、現在ではコンピュータのOSに既に組み込まれていることはしばしば体験されるところである。と同時にハードウェアの利用形態も近年飛躍的に進歩している。そこでビジネスモデル特許を取得したところ、ビジネス方法としては同じようなものを第三者が始めたという場合、その第三者が、特許出願時には十分予想しなかったハードウェアの利用形態で当該ビジネスを行なっている場合には果たしてそれに対して特許権の行使ができるかは問題である。設計変更によって特許を逃れるというのは一般に見られるところであるが、ビジネスモデル特許の場合はそれが急速な技術進歩を背景になされるところに特徴がある。たとえば、オンラインショッピングについてビジネスモデル特許を取得したとしよう。その場合、オンラインショッピングを行なうためのソフトをCD−ROMで販売するものとする。オンラインショッピングを実現するためには各装置が所定の機能を果たす必要がある。それらはビジネスモデル特許のクレームに記載されている。クレームでは機能A、機能B、機能Cすべてをプログラムが達成することになっていたとしよう。ところがその後の技術進歩により、機能A(たとえば通信機能)はOSによって達成できるようになり、第三者が機能B、機能Cを達成するプログラムを提供することによって同じビジネスを行なったらどうなるか。この場合、プログラム製作者である第三者は直接侵害とはならない。間接侵害の成否のみが問題となる。この場合、機能B、機能Cが機能Aと一体となって働く以外の用途がないといえる場合には間接侵害となる。OS提供者についても間接侵害が問題となる。さらに発展して、データを入力さえすれば機能A、機能B、機能CすべてがOSにより達成され、プログラム製作者はデータ入力のみ提供する場合はどうなるか。この場合はOS提供者のみが直接侵害となろう。

3.以上はOSの機能が拡張した場合の問題だが、ソフトをインストールする方法が多様化した場合にも問題が生じる。たとえばCD−ROMに記憶されたプログラムをインストールするのではなく、ネットワークを通じてプログラムをダウンロードできるようになってきている。この場合誰がビジネスモデル特許を実施していることになるであろうか。プログラムの提供者、ダウンロードしたユーザーそれぞれにつき「生産」にあたるか「貸渡し」にあたるかが問題となる。ダウンロードするのではなく単に利用するだけの場合はどうなるかも問題となる。

4.このように、ビジネスモデル特許においては特許出願時に想定しなかった経路でビジネスが展開される可能性がある。従って同じビジネスが展開された場合、誰を相手に権利行使したらいいのか、そもそもクレーム作成段階で誰の行為を想定してクレームを作成するかが重要な問題となるのである。特にビジネスというのは単一の主体だけでは成り立ち得ないものであり、当然に複数の主体の存在を想定するものである(この点、物の発明と根本的に異なる)。そこで、クレームに複数の主体を登場させた場合、誰の行為が実施行為に該当するか微妙な問題を生じる。抽象的にいえばできる限り登場人物を少なくするようなクレームを作成しないと問題を生じることが多いであろう。

5.さらに、インターネットを利用したビジネスモデル特許の場合、国境を越えて展開するインターネット取引の特性から問題が生じることがなる。たとえばインターネットを利用したオンラインショッピングの場合、サーバコンピュータにデータを記憶する過程が含まれるわけであるが、この場合サーバがアメリカにあるとどうなるか。アメリカにあるサーバにデータを記憶しても「実施」とはいえないことになるか。しかしこれではサーバを国外に設置するだけで特許権の行使を免れることができることになり不当ではないかという問題がある。 今のは日本人がサーバだけアメリカに移した場合である。では日本人が日本にあるサーバでビジネスをしており、それが方法としては米国特許と全く同一であるが米国特許権者が日本では特許を取得していない、ただアメリカがアメリカからそのサーバにアクセスできるという場合はどうか。日本とアメリカが逆の場合も考えられる。この場合はある国の特許権を外国で行使できるかという問題である。裁判管轄の問題、属地主義、準拠法の問題が関係し複雑な問題となる。

6.その他、ビジネスモデル特許が成立した場合、その技術的範囲をいかに解釈すべきかという問題もある。特許公報を検討する限り、現在まだ特許となっていないが仮に特許となった場合、かなり産業界に影響を及ぼしそうな発明が散見される。特許をとるばかりでなく、そういった先願にどう対抗するかは今後重要な課題といえよう。
加藤 貞晴(加藤法律特許事務所 弁護士・弁理士)
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