ジャーナル


ネットJ「くらしの法律相談」バックナンバー

(Q)
知人のIDとパスワードを勝手に使って
チャットしてしまったら問題あり?
(A)
このような行為は、いわゆる『不正アクセス禁止法』の処罰対象となります。また、使われた相手の、社会的な評価を下げるような発言をしたのなら、名誉毀損の罪に問われる可能性があります。さらに、民事訴訟により損害賠償請求を受けることも予想されます。
 
 
他人のIDやパスワードで
"成りすます"のは犯罪

 ある女性から寄せられた質問です。
「私はチャットが大好きで、インターネットのチャットサイトを楽しんでいます。先日、ふとしたきっかけから知人のAさんが使っているチャット用IDとパスワードがわかったので、悪いとは思いながらも、そのIDとパスワードを使ってAさんに成りすまし、ログインしておしゃべりしました。その際、"会社に出す領収証の金額を書き換えた"とか"アイドルの○×のファンだ"とか、よく知りもしないのに、勝手なことを言ってしまいました。また、Aさんは男性なので言葉の使い方も少しおかしかったかもしれません。その後、Aさんは、誰かにIDを利用されたことを知り、とても怒っているようです。
 私のしたことは法律ではどうなるのでしょうか?」
 たまたま他人のIDとパスワードを知ってしまった人にとっては誘惑の多いところでしょう。しかし、他人のIDとパスワードを無断で使ってログインし、本人に成りすましてサービスを受けることは、法律上は数多くの問題を抱えています。では、問題点を刑事と民事に分けて説明してみましょう。

"不正アクセス"として
処罰の対象になる

 まず刑事面です。他人のIDとパスワードを使ってログインすることは、『不正アクセス行為の禁止等に関する法律』(不正アクセス禁止法)によって処罰対象とされています。また、その刑罰は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。以前は、質問にあるような"チャットサービスを受ける"ことを既存の法律では処罰することが困難でした。そのため、インターネットの普及、その他を背景として、新たな法律を作って対処できるようにしたわけです。
 もちろん、上記のような例の全てが捜査の対象となり、裁判になっているのかといえば、そうではありません。被害者が勝手にIDを使われたことに気づかない場合や、勝手にIDを使われても警察に被害申告しない場合には警察は動かないでしょう。ただし、Aさんが犯人の断固たる処罰を求めて所轄の警察署に刑事告訴すれば警察は捜査を行ないますし、実際に摘発された例もあります。
 また、チャット内での発言がAさんの社会的な評価を下げるものならば、名誉毀損にもなります。質問の例にある領収証の件は、本人の社会的評価をおとしめる内容ですから名誉毀損に当たります。

会話の内容によっては
慰謝料請求を受ける

 次に民事問題です。これはおもに「Aさんに対し慰謝料を支払う義務を負うか否か」という点が問題になります。なお、慰謝料とは、その人が受けた精神的苦痛を金銭に換算して支払うものを言います。
 まず、領収証にかかわる発言はAさんの社会的評価を下げ、その名誉を傷つけるものです。ですから、慰謝料のかたちでこれを賠償する必要があります。
 では、その人の社会的評価が下がらなければよいのかといえば、そうではありません。先例のような「アイドルの○×のファンだ」といった発言でも、この種の趣味・嗜好は、本人にとっては他人に知られたくない種類の情報でしょうから、無断で公開することはプライバシー権の侵害として民事賠償の対象となります。
 さらに、名誉毀損、プライバシー権の侵害といった問題とは別に、"人格の同一性の問題"があります。つまり、チャットでは、その人の考え方、言葉の使い方、受け答えなどの癖がかなり忠実に表われます。そのため、話した内容はもちろんのこと、話し方や考え方の癖といったものまで、チャット内で本人のものと誤解されることが起こりえます。先述の質問例で言えば、ある女性が男性に成りすまして話をすれば、その受け答えのなかに女性らしい部分が紛れ込んでしまう可能性があるでしょう。そのため、チャットの相手はAさんを女性か、あるいは女性のふりをしているのでは、と誤解する恐れがあります。これは、Aさんがどういう人物であるかという、その属性、評価、印象といった人格の同一性判断を誤らせるもので、それ自体がAさんにとっては苦痛事になるはずです。このようなトラブルは、IDやパスワードが不要の掲示版でも十分起こりうることであり、名誉毀損やプライバシーの問題だけでなく、不正アクセスの問題を除いたとしても、慰謝料請求は免れないでしょう。
 一見、些細なことのように見える質問ですが、このように大きな問題に発展する危険性があるのです。成りすましへの誘惑があったとしても、すべきではないでしょう。

(弁護士 山崎俊和 中村法律事務所)
不正アクセス行為の禁止等に関する法律
 '99年2月より施行されている、いわゆる『不正アクセス禁止法』。他人のID、パスワードを無断で使い、ログインするなどの行為を規制する目的で制定された。「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられる。
 また、たとえば、Aさんという人のIDやパスワードを、Aさんに無断で、他人に知らせたりする行為は、「不正アクセス行為を助長する行為」として、「30万円以下の罰金」が科せられる。他人のID、パスワードを無断で販売したりする行為もこの規定が適用される。
名誉毀損罪
 具体的に人の社会的評価を低下させるような事実を"公然"と告げることによって問われる罪。刑法では、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」という刑罰を規定している。"公然"とは、不特定多数人の認識しうる状態をいい、ネット上の掲示板などは、"公然"の場であると考えられる。また、メールの場合も複数の者に送信すれば"公然"と考えられる。ただし、この罪は"親告罪"のため、告訴されなければ罪は問われない。
 
 
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