ジャーナル


ネットJ「くらしの法律相談」バックナンバー

(Q)
ネットで知り合ったたくさんの趣味仲間に、
所有する本のコピーを配布してはダメ?
(A)
著作権法では"著作権の制限"として、著作物を自由利用できる場合を定めています。一定の条件をみたしさえすれば、著作物を「私的使用」することも可能ですが、その条件は厳密に規定されています。それを満たさないと、仮に自分では利益を得ていなくても、著作権の侵害にあたるので注意が必要です。
 
 
「私はある会員制の趣味のホームページの会員です。会員数は約1000人で、会ったことのない人がほとんどです。このサイトで、会員共通の趣味についての新刊本を、"もう読んでしまったので無料であげます"と投稿したら、何十人もの方からの希望がありました。コピーでもいいという人が多いので、ひとりに差し上げて、あとはコピーを送ってあげようかと思いますが、何か間題がありますか?コピー代、切手代などはいただくつもりですが、自分の利益にはまったくならないので、かまわないですよね?」
 このような相談を受けました。これは"著作権"に関わる間題です。以下、その問題点について検証していくことにしましょう。

私的使用の範囲内であれば
許される"本"のコピー

 著作権法で保護される"著作権"にもいろいろありますが、そのひとつに"複製権"があります(著作権法21条)。同法2条1項15号によれば、"複製"とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再生すること」です。すなわち、"本"のコピーはこの"複製"に含まれることになります。つまり、本来、"本"も著作権者のみがコピーすることができ、著作権者以外は、著作権者の許諾を得ないと複製できないのが原則である、ということです。
 もっとも、著作権法は"著作権の制限"として、著作物を自由利用できる場合を定めています(同法30条から50条)。そのうちのひとつとして、著作物を「私的使用」する場合が定められています(同法30条)。
 ここで許される著作物の「私的使用」の要件は以下のようなものです。
[1]個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合であること
[2]使用する者が複製すること
[3]公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を使わないこと
[4]技術的保護手段(無断複製を技術的に防止する手段)を回避したものでないこと

 今回の相談のケースは"本"ですので、ここでの[4]の要件については問題にならないことは明らかです。
 また[3]の要件についてですが、当分の間、文書または図画の複製をするものについては、ここでいう"自動複製機器"に入れないものとされています(附則5条の2)。したがって、これも問題にはなりません。
 結局、今回のケースでは、上記の[1]と[2]の要件が問題となるわけです。

少数で特定できることが
配布先としての必要条件

 まず、[1]の要件についてですが、法律の世界では、"家族またはこれに準ずる限られた範囲内"というのは、非常に狭く解釈されており、使用する範囲が少人数であり、かつ、特定されていることが必要とされています。
 具体的には、たとえば10人くらいの趣味のサークルであれば、この要件は満たされると解釈できます。しかし、"会員制の趣味のホームページ"を仮にサークルのようなものと考えたとしても、このネット上のサークルは、通常のサークルとは明らかに異なる部分があります。すなわち、"実際に会ったこともない人がほとんど"というわけですから、そのようなサークルの会員数十人を対象に、掲示板上のやりとりから配布先を決める方式では、その配布先は"特定"にも"少数"にもなりません。つまり、[1]の要件は満たされないものと解釈されます。
 また[2]の要件についても、今回の相談内容では、使用する者が複製するわけではないので、満たされないのは明らかです。もっとも、この要件については、本を無償で貸すことは著作権法上許されているので(同法38条4項)、もし、本を無償で貸してあげ、借りた人がコピーするという分には、著作権侵害はないことになります。
 したがって、今回の相談のケースでは、相談者が、個人的にごく親しい範囲のネット友達(実際に会ったことがある人などを想定)と討論などを行なうために配布する場合か、または、本そのものを無償で貸しだし、借りた人が自分でコピーする場合であれば、著作権侵害はないことになります。
 しかし、それ以外の方法で行なうと、それが仮に自分では利益をまったく得ていない場合であったとしても、著作権(複製権)の侵害となってしまいます。その場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性のある行為をしていることになりますので、くれぐれも注意してください。

(弁護士 金野志保 八重洲法律事務所)
キーワード
【複製権】『著作権法』第21条には、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」とある。

【著作権法第30条(抜粋)】著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
[1]公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合
[2]技術的保護手段の回避により可能になり、又はその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う場合

【著作権法第38条4項】公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
 
 
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