ジャーナル


アメリカロースクール日記 全14回
岡本亜紀子(American University, Washington College of Law, LL.M. 在学中)
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第7回「じゃ、今晩は一緒にのみに行かないか」
 「じゃ、今晩は一緒に飲みに行かないか」インターンシップが始まって、1週間経ったころ、同僚のウィリアム(ミズーリ州出身)は気さくにそういって「仕事のあとの一杯」に誘ってくれた。アメリカで働くのは、これがはじめての私にとって、彼は、アメリカでできたはじめての「同僚」である。

 卒業式が5月下旬に終わると、すぐに夏学期が始まる。卒業式だけ早めにすませ、実は8月に卒業するという学生たちは(第6回参照)、サマーコースをとることになるのだが、夏学期の場合は、普通の講義のほかに、インターンシップといって、働きながら学ぶというシステムを利用する学生が多い。

 インターンシップというのは、何度聞いてもその本当の意味がわからないのであるが、つまりは見習いとしてどこかの組織に入り、働きながら自分の専攻に役立つことを学ぶ制度、とでもいえばいいのであろうか。しかし、いくら見習いとはいえ、労働契約のひとつであるから、普通の労働とさほど変わることはないのだが、ある一定の時間、働くことによって単位を稼ぐこともできるところは、普通の労働と違う点かもしれない(これをエクスターンシップだという人もいる)。そういう場合、給料はもらえないこともあるのだが、インターンだからこそできる経験というものも多いので、その辺は自分のなかの利益衡量で決めていく。

 一般的に、ロースクールの学生のするインターンシップで一番最初に思いつくのは、ローファーム(法律事務所)でのインターン。インターンシップ先が、卒業後の就職先になる場合も多いとか。

 しかし、もちろん、ローファームだけが職場ではない。とくにここは、アメリカ合衆国の首都、ワシントンDC。米国政府関係、国際組織、多くのNGOなど、ここならではのインターン先がたくさんある*1

 私個人としては、アメリカに留学しようと決めた当初から、必ずやってみようと思っていたのがこのインターンシップであった。いくら、アメリカで学位を得ても、外国人の身で職を得るのは大変だろうから、せめてインターンシップ先を探す就職活動(第2回参照)も含めて、ここアメリカで社会人擬似体験をしてみたかったのである。もちろん、レジュメ(履歴書)に1項目増えるので、本格的な就職活動のためにもなる。

 基本的に、インターンシップとはいっても、就職活動は自分でしなくてはいけない。もちろん、外国人学生の多いLL.M.にはそれを助けてくれるスタッフはいるけれど(第2回参照)、それにしても自分から申し出ないかぎり、むこうからたずねてくれることはない。なにごとも自主性がものをいう国である。

 そんななか、春学期の初めから探し始めたインターンシップ先は、結局、期末テストが終わるころ、ローライブラリーオブコングレス(国会法律図書館)*2に決まり、早速5月29日から働き始めた。ここでの私の仕事は、ある国際的プロジェクトの準備のため、日本の基本法に関する、短い紹介文をかくこと。もちろん英語で。ここにきて、日本法をおさらいすることになるとは思わなかったが、日本法を別の角度から見るチャンスになるかもしれないと思い、働くことにした。

 働き始めてまず驚いたのは、インターンの学生にも、専用の机、電話、パソコン、そしてキュービクルといわれる、専用の部屋のようなものまでもらえたことである。わがロースクールのインターンシップコーディネーターであるチェルシーにそのことをたずねたら、それはアメリカでは普通のことらしく、さらに驚いてしまった。プライバシーを第一に考えるアメリカならではの職場環境である。

 仕事のしかたも、自由裁量がかなり含まれており、時間の使いかたもあまり拘束されていない。やるべきことをやりさえすれば、あとは自分の責任において自由という感じである。

 すこし、軽い話をすると、アメリカでは、どこかの組織に属して働く場合、IDカード(身分証明書)を首から下げるのがスタイル。したがって、働き始めてすぐ、インターンの私にも政府職員と同じIDカードが与えられたのであるが、それを首から下げて、キャピトルヒルのあたりを歩いていると、なんとなくDCで暮らしているという実感が湧いて、それだけでもインターンシップをする甲斐があったかな、とも思った。

 その日、もうすでに誰もいなくなってしまったオフィスから6時少し前ぐらいに出て、ユニオンステーションの近くにあるアイリッシュバーまで歩いた数分間、ウィリアムは「ここがジェファーソンビルで、内装がとてもきれい」とか「知っていると思うけどここが最高裁判所」といった具合に、観光案内までしてくれた。彼は、将来、立法行為にかかわるローヤーになるのが希望で、ここライブラリーオブコングレスをインターンシップ先に選んだとも。

 これまで、LL.M.という、ある意味アメリカの実社会からかけ離れた特殊な環境のなかで過ごしていた私にとって、普通のアメリカを知る機会は意外と少なかった。学校の先生やその他、留学生を世話するのが仕事の人はそれなりにいろいろ教えてはくれるけど、それ以外に学校で講義を受けているだけでは、普通のアメリカを語ってくれる人はそういない。したがって、ウィリアムははじめての同僚であると同時に、はじめて私と同等の立場で普通のアメリカを語ってくれる人でもある。

 そのアイリッシュバーでウィリアムの友だちとともに仕事帰りの一杯をしながら、留学生というちょっと特別の立場から、アメリカで働くひとりの同僚に「格上げ」されたような気がして少し嬉しかった。


*1なお、参考までに以下がインターンシップ先の一部。
国際組織:the World Bank(世界銀行), the Inter-American Development Bank, International Monetary Fund (IMF) etc.
NGO: Human Rights Watch, the Center for International Environmental Law (CIEL), World Organization against Torture USA etc.
米国政府、DC政府関係: the Office of the Corporation Counsel of District of Colombia, the Law Library of Congress etc.

* 2ライブラリーオブコングレスの仕事
ライブラリーオブコングレスは、世界最大の図書館として通常の図書館業務も行っているが、それと同時に、立法のための準備機関としての役割も果たす。したがって、この図書館のなかでは、たくさんのローヤーがコングレッショナルリサーチ(立法調査)を行っている。著者がインターンとして働いている部署も、外交、立法などに必要とされる外国法の資料をそろえることをその業務としている。
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