ジャーナル


アメリカロースクール日記 全14回
岡本亜紀子(American University, Washington College of Law, LL.M. 在学中)
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第6回「これで終わりじゃない。これが始まり」
 「これで終わりじゃない。これが始まり」春学期の期末テスト真っ只中、5月第1週の土曜日、早々とすべてのテスト、論文(ペーパー)を片付けてしまったイギリス人のルパートはこういい残して、祖国へと旅立っていってしまった。

 学校によって多少の差はあるだろうが、アメリカでは4月の終わりから5月の中旬にかけては、春学期の期末テスト。そして、それが終わると卒業式シーズンになる。基本的に1年間で終了するわがLL.M.では、去年の秋に入学した学生の多くがこの5月に卒業式を迎える。サマーコースを取って、それで卒業単位がそろう学生も多いけれど、卒業式は夏にはないので、そういう学生も5月の卒業式に参加することになる。著者自身も8月卒業組のひとりである。

 テストの方式には大きく分けてインクラスエグザムとテイクホームエグザムの2種類ある。

 インクラスエグザムというのは、日本で一般的に行われているような特定の日の、特定の時間内に、教室のなかで行われる普通のテスト。教科によっては、制限時間が4時間とか5時間という長時間のものがあったり、なかにはオープンブックという「資料持ちこみ可」のものもあったり、また、タイプをするためにたいていパソコンの使用が許されているところなどをのぞいては、なじみのある形式のテストだ。

 一方、テイクホームエグザムというのは、その名のとおり、テストを家に持ちかえってもいいというもの。これには制限時間が24時間、48時間、72時間と3種類あり、テスト期間中いつでも自分の好きなときに始めることができる。「家に持ちかえってもいい」「何を参照してもいい」ときくと、一瞬易しく聞こえるのだけれど、なにかを見て簡単にできる問題が出るはずもなく、結局は、1〜3日で論文を書くような形のテストである。今回の私自身の経験でいうと、「インターナショナル・ビジネス・トランスアクション(国際商取引)」のテストは24時間テイクホームエグザムであったのだが、これが今学期に勉強したすべての分野を網羅しているという曲者で、24時間のうち学校のいきかえり(約30分)と、睡眠(約1時間)、入浴等(約1時間)を除いたすべての時間を答案作成に費やした。あとで聞くところによれば、ほとんどの人(アメリカ人も含む)がそんな感じであったらしい。テイクホームエグザム侮れず、である。

  クラスによってはテストではなく、論文(ペーパー)を課すものもある。LL.M.の卒業条件のなかに「ペーパーを2つ以上書くこと」という項目があることから、すべての学生がいわゆるペーパークラスを2〜3つ取ることになる。

 テストとペーパー。これが学期中、学生に課せられた課題であるが、特筆すべきことは、ここアメリカでは、学期の終わりになると先生のほうも学生から評価されることになっているということだ。エヴァリュエーションフォームという用紙が最後のクラスになると学生に配られ、学生は無記名でその先生の職務態度について各項目ごとに評価する。学生がそれを記入している間、先生は教室を出なくてはいけないし、記入の済んだ用紙は、その先生ではなく学生の一人が回収し、責任を持って所定の場所に提出する、という厳正なものである。私が去年の秋に入学して以来、このエヴァリュエーションによって職を追われたであろう先生は少なくとも一人はいる。決して、形式的なものではない。

 テスト期間は4月の終わりから5月の中旬までだが、それぞれのスケジュールでテストは終了していくため、冒頭のルパートのように早々と終わってしまう者から、私のようにぎりぎりまで長引く者もいる。それでも、終わってしまえば、早かったような気がするのは、先学期と同じであるが、なんとなく寂しいのは、卒業が控えているからだろうか。

 「卒業式には帰ってくるんだよ」とみながルパートに念を押しはしたけれど、すでに祖国イギリスでの就職が決まり、この1年間、奥さんと6人の子どもをイギリスの家に残したまま、単身アメリカで勉強してきたルパートが卒業式のためだけにもどってくる可能性は少ない。そしてそのほかの学生の多くも、卒業式が終わったらすぐに新しい世界へと旅立っていく。90%以上が外国人で構成されているLL.M.なのだから仕方はないが、文字どおり「散々」になってしまうと思うとどうしようもなく悲しい。

 そんな気持ちがみんなの心によぎり、いつもなら大騒ぎになるはずのパーティがしめっぽくなりそうになったころ、おもむろにシャンペンを取り出したルパートは、派手にそのボトルを振りまわし、「これで終わりじゃない。これが始まりじゃないか!」と年長者らしくみなを励ましたのだった。みなが世界に散っていったあとからが、LL.M.の底力の見せ所だ、と。

 ルパートのいないであろう卒業式は、5月20日、日曜日、大学内で行われることになっている。
卒業式写真
卒業式にて
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