| アメリカロースクール日記 全14回 岡本亜紀子(American University, Washington College
of Law, LL.M. 在学中)
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| 第5回「私は口下手なのよ」 |
| 「私は口下手なのよ」ハワイ出身、JDコース(「ロースクール日記」第4話参照)の学生であるジョアンは恥ずかしそうにそういった。 アメリカのローヤーというと、法廷ものの映画の影響もあって、やたらと口のたつ人を思い浮かべてしまうのだが、そうとばかりはいえないのではないかと最近思う。いわゆる「ソクラテス方式」*1のクラスで大活躍するような典型的なローヤー向きの学生ももちろんいるけれど、ジョアンような学生がまれかといったらそうではないような気がする。 アメリカには実はいろいろなローヤーが存在していて、法廷にたつ種類の人はそのなかの一部であるらしい。インハウス・カウンセルといういわゆる、会社の顧問弁護士や、ローファームのなかでリサーチだけをするローヤー、政府のなかにも山のようにローヤーがいて公務員ローヤーとして働いている。 アメリカにはたくさんローヤーがいる分、その活躍する場所もまた多岐に渡っているというわけだ。 話は変わるが、今学期(2001年春学期)、私は一風変わったクラスをとった。その名も「セレクテッド・イシュー・オブ・インターナショナル・ビジネス」という、これだけでは何をするのかよくわからないタイトルのクラスであるが、担当教授がわがLL.M.の学部長、ブラッドロー教授であることからなんとなく関心を持った。学期の初めの「アド・アンド・ドロップ・ピリオド」*2にこのクラスを受講してみたところ、どうやらスコットランドの学生と国際ジョイントヴェンチャー会社設立のための模擬交渉をするらしい。口語英語にあまり自信はないけれど、実務には役に立つかもしれないな、と一抹の不安を抱えながらもとることにした。 ジョアンとは、そのクラスで会った。 |
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| クラスメートとブラッドロー教授(最後段) |
| その模擬交渉(シュミレイティッド・ネゴシエーション)とは、簡単にいうと、初めに共通の交渉環境の資料(各会社の概要、各会社の存在する国の概要、法律等の説明)と、各会社にとって絶対譲れない秘密の最低条件が与えられ、それらをもとにできるだけ自分たちの側に有利な形でジョイント・ヴェンチャー会社設立交渉を進める、といったものである。 交渉相手が大西洋の向こうに住むスコットランドの学生であるということが、臨場感を醸し、他のクラスにはない楽しさがあったと思う。実際、このクラスを受け持ったブラッドロー教授も「こんなクラス、他には聞いたことがないよ」とご自慢の様子であった。 すべての交渉をビデオ会議でできれば一番いいのだか、それは費用がかかりすぎるということで、最初6回の交渉はインターネットを利用した手紙によって行い、最後の交渉だけをビデオ会議で行うことになっていた。 手紙での交渉は、週に1回のクラスの間に、みんなで意見を出し合ってひとつの手紙を作り上げ、それにたいしての返事を同じ週にスコットランドから受け取るという形を取った。その際、19人のクラスを6つのグループに分け、それぞれ仕事の分担をし、担当の問題について意見を出し合った。 私は、特許契約のグループにジョアンとともに属していたのだが、手紙での交渉の段階では、なかなかそこまで話が進まず、あまり出番のないグループであった。しかし、裏を返せば、最後のビデオ会議に私たちのすべての仕事が持ち越されるということでもあった。 案の定、ビデオ会議直前の週に、会議当日の段取りなどをクラスで話し合ったところ、今まで手付かずであった特許契約の交渉がどうやらメインのトピックになるとの予想で、私たちは緊急にグループ・ミーティングを行った。 そのとき私たちは、特許契約交渉の方向性、順序などを話し合ったのだが、だれがスピーカー(会議中、グループを代表して話をする人)になるかも決めなくてはいけなかった。 白熱するとみられるそのビデオ会議に、外国人である私がスピーカーとして参加するのは、ちょっとためらわれた。勇気がなかったな、とあとで後悔はしたけれど、なにを質問されるのかわからない「本番」にスピーカーとして臨むには少々自分の語学力に自信がなかった。 結局、わが特許契約グループにはジョアン、私のほかに、アマンというJDコースの学生がもうひとり属しており、その彼女が「仕方ないわね」という感じでスピーカーを引き受けてくれたのだが、「恥をかくこと・参加すること」をこの留学の目標にしている私としては、どことなく後味の悪いミーティングになってしまった。 自己嫌悪を感じたまま、家に帰るためにバス停に向かったところ、そこにジョアンもバスを待って立っていた。少し、たわいもない話をしたあと、思いついたように彼女は「私は、口下手なのよ」という冒頭のことばを、打ち明けるようにいったのだった。「グループを代表して喋るなんて私にはできないわ」 「ロースクールに通っているアメリカ人でも人前で話すのが得意じゃない人がいるのか」と妙な親近感を感じた。もちろん、だからといって私の自己嫌悪が解消したかといえばそうではないけれど、すべてのローヤーがみんな口が達者である必要もないのだな、と気づいた。法律の知識を生かす場所は法廷だけではないのだから。 そして、ビデオ会議の当日、額に汗しながら交渉するアマンの横で、ジョアンが細かい指示を紙片に書いて渡しているところを見て、さらにそういう気持ちを強く持った。 *1 問答式の講義方式。 *2 登録したクラスを取り消したり、登録していないクラスを新たに登録したりできる学期の初めの「物色期間」。 |