ジャーナル


アメリカロースクール日記 全14回
岡本亜紀子(American University, Washington College of Law, LL.M. 在学中)
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最終回「帰国するのを楽しみにしている」
「帰国するのを楽しみにしている」。そう電話で母に伝えたとき、私はすっきりとした気持ちで、ここワシントンDCを去り、日本で社会人にもどれると確信した。

 これより少し前、私の就職活動は相変わらず一進一退を繰りかえし、そろそろ帰国を考えなくてはいけないと思い始めていた。ただ、そうするには、なにか決め手にかけているような気分だった。冷静に現状を分析すれば、日本のほうが就職の可能性が高いし、実家に戻りさえすれば、生活費、住居費はいまよりも安くなる。しかし…。

 そんなとき、突発的に仕事の話が二三、舞い込んだ。DCのローファームで日本語のできるロースクール卒業生を探しているという話である。

 そのころの私は、何に対してもやる気がうせたような状態で、その就職話にもあまり乗り気になれなかったが、知り合いからの紹介だったこともあり、また、単純にアメリカでの職務経験にまだ少し魅力を感じたため、その日のうちに電子メールでレジュメを送り、返事を待った。

 そうしてみると、なんとなく結果も期待してしまうし、もしかして、DCにもう少しいられるかもしれない、などと考えも膨らむ。

 が、ほとんど1日と間をおかず、すべての話がないこととなってしまった。またしても、リジェクションだ。

 自分で行動して、手に入れた就職話でもないのに、私はこのとき妙に落ちこんだ。そして落ちこんでいる自分に妙に腹が立っていた。しばらくして気持ちが落ちついてから、その理由を考えると、それは、「能動性の欠如」にあると気がついた。これからはどうせ傷つくなら、自分の決めたこと、自分で選んだことで傷つかなくてはいけない。そう強く思った。

 そして年が明け、2002年になったころ、私ははっきりと帰国の意志を固めた。

 いろいろ考えた末、就職先は、日本のとある貿易会社になった。アメリカ、アジアからの輸入に関するコンサルタント業務が主な仕事。そのなかにはもちろん契約や商標の管理等の法律的業務も含まれるが、営業、広告、その他雑務もこなさなくてはいけない小さな会社である。

 同級生の多くが、弁護士その他の法曹関係の仕事につくなか、いわゆるビジネスの世界で職を得ることは、ある種、疎外感を感じなくもなかった。

 しかし、就職というのは、自分のバックグラウンドあってのこと。広告業界で、制作、営業等の仕事経験がある私には、むしろこの方向が正しいことに、しばらく考えて気がついた。そして、そういうビジネスの世界とロースクールで得た知識、経験、知人等が、「私」という個人を通してうまく融合しうるとすれば、これはこれでおもしろいのかもしれない、とも思えた。

 ロースクールでは、法律文書の書き方等の実践的なスキルから、ビジネスと人権、環境などのかかわりといった、純粋に知的好奇心を掻きたてる情報まで、さまざまなことを学ぶことができた。

 ただ、これらの知識をどこでどう活用していくのかは、各々の卒業生の選択による。私は私の道を行けばいい。

「WCL(Washington College of Law, American University)よりもたくさんの国、地域から来た人間に会える場所は、世界でも国連の本部ぐらいだ」とLL.M.ディレクターであるブラッドロー教授は豪語する。そして、そういう環境のなかで学生は、異なった法域間の法律問題を議論するだけでなく、異なった文化、習慣を背負ったもの同士、いかに仕事をしていくのかということも学ぶのだ、と。*

 肌の色、言語、文化、宗教、何もかもが違っている人々と私は、ここロースクールで出会い、そして、心を通じ合わせることができた。これは、実感である。そしてこれが多分、目に見えない、しかし一番の自信となってこれからの私を支えてくれると信じている。

 「帰国するのを楽しみにしている」。そう思いながら帰国の途につこうと思う。


* Sarah Murray, A Global Approach to the Law, Financial Times US Edition, July 23, 2001.
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