| アメリカロースクール日記 全14回 岡本亜紀子(American University, Washington College
of Law, LL.M. 在学中)
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| 第13回 番外編「あなたがアキコね」 |
| 「あなたがアキコね」。もう相当の古株と思われるワシントン・ナショナル・カセドラル(国立大聖堂)・アーカイブ(公文書保管所)のボランティア、ダイアンは、そういって、少々緊張気味の私を笑顔で迎え入れてくれた。 アメリカ人は、とても気軽にボランティアをする。理由はさまざまで、社会の役に立ちたいから、というまっとうな動機はもちろんのこと、仕事がうまくいって余裕ができたから、配偶者が先立ったから、引っ越してきて友だちがいないから、学校の単位になるから、などなど「10人10色」ならぬ、「10人10理由」、といってもいいほどだ。 したがって、私が「キリスト教徒でもないし、キリスト教のことは何も知らないけど、就職活動が難航していて、なにかしていないと気が滅入るから近所の教会でボランティアができればいいな、と思って」と理由を述べたところで、ナショナル・カセドラルのボランティア・コーディネーター、ジャニスは、驚きもせず、「それはそうよね。ボランティアをするのはいい考えだわ」と同意さえして、さっさと仕事の割り振りをしてくれた。 「ロースクール出身なの?それなら、リサーチができるから、アーカイブね」。ナショナル・カセドラルは、代表的な儀式になると、米国大統領も出席するという大きな教会なので、ガーデニングから、美術品の管理・修復、観光客に対する解説、ミュージアム・ショップでの商品管理等々、ボランティアの仕事はたくさんあるため、気分転換には屋外で体を動かすのも楽しいんじゃないかなどと軽く考えていた私に、ロースクール出身という肩書きは、思わぬところで私の能力を保証してくれたらしい。有無もいわせず、アーカイブ行きが決定してしまった。 アーカイブは、その名の通り、公文書保管所。100年以上ある、この教会に関する全ての資料を管理し、外部からの質問等に答えている。教会の敷地の売買に関する契約書・手紙・メモ、寄付に関する書類、歴代の司教のプロフィール、設計図、さまざまな写真、美術品の記録、賛美歌の楽譜、歴代大統領とのかかわりなど、あらゆる資料が、教会の裏手の石造りの建物の最上階に収められている。キリスト教の知識は限りなくゼロに近い私の最初の仕事は、これらの資料をコンピュータでデータ・ベース化することとなった。 メンバーは、ドクター・ヒューリッドを所長として、20人弱のボランティアで成り立っており、その多くが、退職者のように見える。そして、もちろん、「10人10理由」のボランティアだけに、大学入学を控えてその前に少し時間があるから、という人や、就職活動の合間に気晴らしをしたいからという私のような、軽い気持ちで来ている若い世代もいる。 宗教に対する精通度にも開きがあり、仏教徒である私程度の、キリスト教、聖書に対する知識しか持たない人もめずらしくない。クリスマスも間近の12月中旬、アーカイブ主催で、小さなクリスマス・パーティがあった。そのときだれかが持ってきたクリスマス・ケーキは、聖書のなかの一節の風景を模している「らしかった」のだが、私にはさっぱりわからなかったので、隣りにいた人にこっそり尋ねたところ「いや〜僕もぜんぜんわからないよ」と苦笑いされていまった。 大学という枠のなかで、しかも留学生という特殊な身分でアメリカ生活の大半を過ごしてきた私にとって、「本当のアメリカ」は、意外と遠い存在であった。渡米当初は、語学力も伴わなかったこともあり、「アメリカ人は、外国人に冷たい」というような印象さえ持つこともあった。 しかし、「あなたがアキコね」(You must be Akiko!)。そういって、キリスト教のことも知らず、ましてやキリスト教徒でもなく、単に「気を紛らわしたくて」来た外国人を、教会にいるアメリカ人たちは、はなんのわだかまりもなく両手を広げて迎え入れてくれた。そして、難航する就職活動から、随分横道にそれたところでたどり着いたボランティア活動ではあるけれど、実はここで初めて普通のアメリカ人と、「苦しいときも、自分からそれを表現しなくては、だれも助けてはくれない。しかし、求めさえすれば、必ず手は差し伸べられる」というアメリカらしい道筋をたどって出会っているのかもしれないと感じている。 |