| アメリカロースクール日記 全14回 岡本亜紀子(American University, Washington College
of Law, LL.M. 在学中)
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| 第10回「私は、いいガールフレンドにはなれるけど、いい娘にはなれないの」 |
| 「私は、いいガールフレンドにはなれるけど、いい娘にはなれないの。しかたないよね」ポーランド人弁護士、ボゼーナさんは、そういって、私にウインクをした。 インターンシップ(第7回参照)最後の日は、思いがけず、いろいろな人から名残惜しまれ、悲しくなってしまった。私のここ(ライブラリーオブコングレス)での仕事は、リサーチとその報告であったため、働いている間中、外に出ることはほとんどなく、また、他の人と一緒に仕事をすることはなかったのであるが、職場での人間関係はきわめて良好で、別れるのはとても辛かった。 なかでも、ポーランド人弁護士、ボゼーナさんは、インターンを始めた当日から、気さくに私に話しかけ、緊張をほぐしてくれた恩人である。そして、インターン最後の日にも、仕事をちょっと抜け出して、ライブラリーの隣りにある、お気に入りのカフェでお茶をご馳走してくれた。歳を聞いたことはないけれど、ポーランドでローヤーの資格を取ってから、渡米し、それから22年たつ、というので、少なくとも40代半ば、または50そこそこのシングルキャリアウーマンである。 ライブラリーオブコングレスのなかで私が属していたのはローライブラリーという部署で、その仕事は、コングレス(国会)からの要請にもとづき、外国法のリサーチをすること。したがって、そこには世界各国のローヤーが待機し、日々刻々と変化する各国の立法状況を調査し、コングレスからの要請があればすぐに、報告書を提出するよう組織されている。 ボゼーナさんもその各国ローヤーの1人で、ポーランド法、ロシア法、国際法を専門にしていた。 「退屈するのが一番嫌い」そういうボゼーナさんは、じっとしていることができない性質と見え、昼休みは、ヨガや太極拳の教室に参加し、仕事のあとは、社交に精を出す、パワフルな女性であった。いつかなどは、「これが私の彼なの」と、屈託なく自分のボーイフレンドを紹介してくれたりもした。 「ポーランドっていうのは、いまは、あんまりファッショナブルじゃないからね、仕事はそんなに忙しくはないの」「でも、仕事はひとつひとつ違うし、ときには最高裁にいくこともあって、飽きないわ」「独立して働けるところがローヤーのいいところよ」なんとなく、余分なことはしないぞ、というようないわゆるお役所的な雰囲気もこの職場にはあったのだが、そういうなかで、彼女はつねに進んで仕事を見つけ、勤務時間中は目一杯働く人でもあった。 それゆえ、ところどころ冗談を交えながら、語ってくれる彼女の話は、おもしろく、かつ、22年間、ひとりアメリカで生きぬいてきたという事実の重みもあり、ロースクールの卒業を目前に控え、自分の進路を考えることにちょっと嫌気のさしていた私の心にも、素直に届くものがあった。 「ご家族は?」との私の少々ぶしつけな質問にも「母がひとり、国で暮らしているわ」とあっさりと答えてくれた。「アメリカに来たら?といったんだけど、そうするのなら、私と一緒に暮らしたいっていうもんだから。それはお断りよ。彼とは一緒にくらせるけど、母とは暮らせない。私たちはぜんぜん合わないの」屈託なくそういう顔にも一瞬、翳りが見えたような気がしたが、それよりも自分の人生を謳歌しようというエネルギーのほうを強く感じた。 「外国人、しかも女性がここアメリカで独立して暮らすってことは、こういうことなのかもしれない」ロースクールをいまや卒業しようとしており、とりあえず、アメリカでの就職活動を始めたにもかかわらず、いまいち踏ん切りのついていない私は、もっとよく将来のことを考えなくてはいけないのではないかと、強く感じた。 「私は、いいガールフレンドにはなれるけど、いい娘にはなれないの。しかたないよね」といってウインクするボゼーナさんの顔がまぶしく見えた。 |