| アメリカロースクール日記 全14回 岡本亜紀子(American University, Washington College
of Law, LL.M. 在学中)
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| 第1回「自分のことばでかくんだよ」 |
| 今回からしばらく、ここで「ロースクール日記」を連載させていただくことになりました、岡本と申します。どうぞ、よろしく。今年の8月より、アメリカはワシントンDCにあるAmerican University Washington College of Lawという名のロースクールで主に国際ビジネス法を勉強しています。ロースクールについてほとんどなにも知らないままここに入ってしまったため、入学以来、驚きと戸惑いに満ちた生活を送っています。そんな生活の一部をみなさんにご紹介して、アメリカのロースクールに興味を持っていただけたらいいな、と思っています。 |
| 秋学期も始まったばかりの9月、ケースブリーフをかく際の注意としてトッドはこう私たちにいった。 トッドというのはファームミーティングと呼ばれる法律文書の書きかたを習う小グループクラスの先生である。なぜファームミーティングというのかは定かではないが、ファームというのは法律事務所のことだからこの小グループをひとつの事務所とみたてて協力して勉強しろという意味なのか。このクラスは、近在のローヤーが仕事帰りにロースクールによって後進の指導にあたるというかたちをとっている。実際は、若いローヤーのアルバイトであるのだろうけれど、歳も近く、エネルギーに満ちた「本物の」ローヤーに直接会うことのできるいい機会でもある。私をふくめ8人の学生で構成されるファームの所長(先生)、トッドは「スーパーマン」を思わせるりっぱな容姿と熱い心をもった素敵な人だった。 ケースブリーフの作成はこのファームミーティングの最初の課題だ。ケースブリーフというのは、指定された判例をブリーフの名のとおりできるだけ手短にまとめるといったものだが、英語で書かなければいけないということをのぞけば、さほど目新しいものとも思えない。したがって、トッドの説明にもあまり注意を払わずにいた。 ケースブリーフの提出から1週間後、ひととおり全員のそれを見終えたトッドは、少し苦笑いをしながらこういった。「自分のことばでかくんだよ、っていったよね。自分の解釈をかかなくちゃ意味がないよ」「判決のところだって、ここがこの判例の判決主旨だと自分が思ったらそれでいいんだよ。判例の理解に正しい答えなんてないのだから」 日本で司法試験をうけた経験のある私は減点を避けるためにも、また勉強時間を節約するためにも判例、基本書のことばはなるべくそのまま使う癖がついていた。なので「判決主旨まで自分で決めていいなんて何てこというんだこの人は」と最初は驚いたが、すぐにこれが判例法の国のやり方かと目のさめるような気持ちになった。そして同時に、ここでは一介の学生である私でも自分の独創性を生かしながら法律を学べるのかと思い、感動した。もちろん、日本にだって自分の意見を持ちながら法律を学んでいる学生はたくさんいるのだろうけれど、試験のためだけに法律を勉強していたころの私は、権威といわれるものに考えがしばられていて法律の勉強が楽しいとは一度も思えなかった。それが私の心の傷でもあった。 その後も口癖のようにくりかえされた冒頭のトッドのことばは、ロースクールに入ってもなお、法律の勉強にたいしてどことなく消極的であった私の背中を「もっと伸びやかに法律を学べ」と力強く押してくれているようだった。 |